溶け出したもの








今日は部活での「缶けり」。ルールは簡単の王道のゲームだけれど、油断してはいけない。
誰もが手に汗握りながら、それでも心は弾んで楽しみながら、罰ゲームを
受けないためにも頑張って知恵をだし、いい場所はないかと隠れる。

俺、前原圭一は隠れる場所が多い教室を選んだ。
さーてどこに隠れようかななんて考えながら教室に入る、と。

「あ、魅音じゃんか」
「圭ちゃん!」






「……あつい」
「お前さっきからそればっかりだな」
「だあって!あついもんはあついんだから!あついあついあつい!」
「だああああ!うるせーな!あついって言ったら余計暑くなるんだよ!」

どうしようもない会話をした後、俺は盛大にため息を吐いた。
俺たちは隠れる方を選ばないで、缶を蹴るほうに回った。
きっとみんな隠れるのに精一杯だろうからな、誰かが蹴らなきゃ意味がない。
鬼はレナだ。あいつはいつもほにゃ〜って感じだが、やるときはやる奴だから甘く見ちゃいけない。
魅音は最初から蹴りに行くことを決めて、教室に来たらしい。俺は隠れるのを優先してたんだけど、
今は魅音と一緒に蹴る側だ。

しっかし、

なんだ、何なんだこの暑さは!ありえあないだろう!魅音は今でも隣で
暑い暑い言ってる。そりゃあな、言いたくもなるだろうな。
今年一番の暑さらしい。今日ニュースで見た。

「もう、早く冬にならないかねえ」

なっがいスカートがひらひら揺れる。何でこいつこんな長くしてるんだろう。
もっと短くすりゃあいいのに。その方が涼しいし、可愛いだろうに。
レナみたいにさ。

「なあ、魅音。お前さ、何でスカート長いんだ?」
「……は?何その質問」
「いや、だって短いほうが色々と楽じゃないか?涼しいだろうし」
「んー……。別に、そんな事考えた事なかったなあ。まあおってもいいんだけどねえ」
「そうしろよ。そっちのほうがいいって」

魅音は少しうーんと唸ってから、俺の前でスカートをおる。ひとつ、ふたつ。
おお、短くなった。ちょうどレナくらいだな。膝が見える程度の短さ。
それくらいが一番いいだろうな。なんだか流行りとかだと長いほうが可愛いって言うけれど、
俺は短い方が好きだな。まあ個人の趣味だな、うん。

「どう、圭ちゃん?」
「うん、それくらいが丁度いいな。短すぎても変だし」
「そう?えへへ」

魅音はちょっと笑顔だった。そして何故か照れた感じで。
そっかそっかなんて言ってる。

「…………」


ふと、思った。


「可愛い……」





いつもは男前で面倒見がよく元気な部長。でもときどき……ホントときどきだけれど。
可愛い時がある。真っ赤になって照れたりして、実は女の子らしくて。
そういうのを見るたびに俺はドキドキする。

見たい、もっと見たい。そんな魅音を。

どうしようもない気持ちがわっと溢れ出した。幸い、今は二人きりの教室。




「可愛いよ」
「ふえ?」

俺は魅音の目を見て、言った。かあっとだんだん真っ赤になっていく魅音はやっぱり可愛くて。
いじめてやりたいと思った。
ガタッと椅子から立ち上がって、にやっと笑ってやった。

「な、なななななに圭ちゃん!お、おじさんをからかっちゃだめだよ!」

すごい動揺している。面白い。にやにやが止まらない。
頬に手をそえてみた。大きな目がこちらを見ている。口をパクパクさせている。

「魅音……」

そう言って目を閉じ……、




「圭一君、魅ぃちゃんに何やってるのおおおおおおおお!?」

ようとしたとき、レナが教室に入ってきて、思いっきりレナパンされた。

「魅ぃちゃん何もされなかった!?大丈夫!?」
「私は全然大丈夫!何もなかったし!うん!」
「そう?だったらいいけど……まったく圭一君ってば、
魅ぃちゃんに何しようとしたの!?こら!何か言ってみてよ圭一君!
聞いてるの前原圭一いいいいいい!」

またもやレナパン。 いやホント勘弁して下さい。





今日の部活、俺と魅音が負けになった。魅音の負けは珍しいせいか、
みんながはりきって罰ゲーム罰ゲームと煽っていた。
そんな罰ゲームは、メイド服の着用。どうってことないいつものものなんだけど、
魅音はかなり恥ずかしがりながら、みんなと一緒に帰っていった。
……俺ももちろん着たよ、メイド服。



しっかし惜しかったな。あの時、もしレナが来なくて続きができたのなら……、
っていうか俺は何をしようとしたんだか。いや分かるんだけど。
俺は魅音に特別な感情を抱いてるのを今日分かった。

俺が目を閉じてるとき、あいつどんな表情してたんだろうな。
どんな事思ってたんだろうな。

なんて考えながら俺は、いつのまにやら涼しくなった空を見上げた。






(20070727)









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