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□SOSバンド
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「みくるちゃん!このギターなんてギャップがあって良いんじゃない!」
「あのお〜、私のパートってキーボードじゃなかったんですか?」
 
 
俺たちはハルヒの「自分自身の楽器を持とう」という、非常にお節介な発案により駅前にある楽器店へと足を運んでいた。
俺自身は自分の楽器を買ったりとか、そもそもまたベースを弾こうなんて気はさらさらないのだが、団長様自身が俺のためにベースを選んでくれるというかなりありがた迷惑な発言により、そんなことは言えなくなってしまった。
 
「わ、わたしキーボード見てきますね!」
もはや凶器なんじゃないかと見間違えるようなデザインのギターばかり押し付けるハルヒから逃げるように朝比奈さんは電子楽器のコーナーへと消えていった。
 
「いやあ、それにしても大きな楽器店ですね。これなら自分にあった楽器を見つけられそうですね。試奏もさせてくれるそうですし」
確かにここはすごく広い。
こんなにでかい楽器店が俺たちの町にあったなんて知らなかった。
「それでは僕はドラムを見てきますので後ほど」
ああ行ってこい。それに戻ってこなくて良いぞ。
「手厳しいですね」
そう言って古泉はドラムのコーナーへと消えていった。
 
それにしても本当に広い。ベースだけでも100本あるんじゃないか?
とりあえず安い入門用のベースでも…
「キョーン!こっち来なさい!」
店の中で叫ぶんじゃない!他のお客さんに迷惑だろ。
「あんた何安モンのベースなんて見てんのよ?あんたにぴったりのベースはあたしが選んであげるからあたしのそばに居なさい!わかったわね!」
あたしのそばに…のくだりだけを聞けばグッとくる台詞なんだがな。
それに選んでくれるのは構わないんだが何で一歩間違えれば凶器になりそうなデザインのものばかり見てるんだ?
そんなもん絶対に俺は持たんぞ。
 
ふと横を見るとギターコーナーで気をつけの姿勢でギターを眺めている長門を発見した。
「長門、気に入ったギターはあったか?」
「有希ならこんなギターとかでも似合うんじゃないかしら?」
ハルヒ!いつの間に長門の隣に移動したんだ!?例のとんでも能力か?そんなことに使うんじゃない!
と、心の中でピンク色のギターを指差すハルヒにつっこみを入れる。
 
「確かにそういうかわいい感じのも似合うだろうけど、やっぱり長門にはクールな感じのギターの方がいいんじゃないか?」
「確かに有希には白とかクールで清楚な感じの方が似合いそうね」
おっ、珍しく俺の意見を聞き入れてくれたぞ?今なら泣いて喜んでいい。
「…これ」
そんな俺をよそに、長門は一つのギターを指差した。
白いクワガタのような形をしたボディに黒いピックガードが印象的なギターだ。
よく見ると去年の文化祭で長門が使っていたギターと同じデザインだった。
 
いつの間にか長門は店員に試奏させて欲しいとの旨を伝え、そのギターを担いでいた。
ギターとアンプをつないでもらい、いざ演奏が始まると、長門の高校生とは思えない、しかもこんな小柄な女の子の超絶テクに店員さんも驚いたようだ。
俺たちだってこの間のバンド練習で何度も聞いたがいつ聞いても度肝を抜かれる。
 
程なくして、長門の試奏が終わった。
「長門、どうだ?そのギターは」
「いい。ピッキングのニュアンスがわかるぐらいの繊細な音」
そうか。俺にはその辺りのことはわからんが長門が気に入ったのならそれが一番だ。 
「これにする」
長門は自分にあった楽器を見つけたそうだ。一本目で見つけるとは、流石はSOS団の誇る万能選手だ。
「でも有希、それ相当高いわよ。大丈夫なの?」
ん?そんなに値が張るのか?どれどれ…
な、何だと!ひいふうみい…六桁に達しているではないか!
もし俺だったら逆立ちしてみても全く手の出せない値段だ。破産しちまう!
「…問題ない」
まあ、長門がそう言うのだから心配いらないのだろう。対有機生命体ヒューマノイドなんチャラの収入源は謎だがそれなりにはあるのだろう。もしかしたら情報操作で何とかしちまうかもしれん。
おい長門、インチキは無しだぞ。
「大丈夫」
そう一言言って店員に話しかける長門。
いったいどうするのだろうか?
 
「このギターを購入したい。しかし予算をオーバーしてしまっている。この価格は一人暮らしの高校生には厳しい。少し安くして欲しい」
なんとも原始的な方法だった。
しかし長門が値切っている姿はなかなかレア物だ、いますぐビデオを回したい。
「せめてあと2万円は安くしてて欲しい」
いきなり2万の値切り交渉なんてなかなかやるな。
しかし楽器店側も商売、なかなか交渉は成立しない。しかし、
「…おねがい」
この一言が決め手だったのだろう、店員もついに折れて長門の交渉は成功という結果を持って幕を閉じた。
しかも、長門の提示した2万という金額よりも多く値引きしてくれ、15万円ほどのギターを10万ポッキリで売ってくれるという。
まあ、長門のまっすぐな目でお願いなんてされて折れない奴の方が珍しい。
 
 
長門の楽器は無事決まったが、俺たちの楽器選びはまだまだ終わらない…
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