お題

□遅すぎた電話
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もっと大切にするべきだった。

なんて、もう遅い事だけど。











「仁王せんぱーいっ!」


赤也に告白され、付き合い始めて約3ヶ月が経った。
告白された時は嬉しかった。
だって、赤也は可愛い。


「なんじゃ、赤也」

「ご飯食べたッスか!?食べてなかったら俺今日作ってみた…」

「一人になりたいんじゃ。付き合ってるのに分からんのか」


可愛いと、思ったのは確か。
でも俺は今赤也を突き放している。

何故か?
なぜだろう?
きっと飽きてしまったんだ。赤也との生活に。


「ぁ…すいません…」


うつ向く赤也にももうなんとも思わない。
それどころか俺は目も合わさずずっと空を見ていた。


「じゃあ…また、放課後ッス」


そう言って去っていった赤也の後ろ姿。
とても寂しげで、小刻みに震えていた。
でもやっぱり、冷たい目でしか見ることが出来なかった。




「ねぇ仁王〜今日暇ぁ?」


クラスの女子が話し掛けてきた。
そんな事はいつものことだけれど。


「あぁ…まぁ、暇じゃな」

「良かったぁ!最近仁王付き合い悪かったからぁ…じゃあ家行っていい?」


「別に良いぜよ」

「やったぁ!」


女子との約束、久し振りの事。
だって赤也が居たから、ちゃんと断っていたけど。







―放課後



「仁王先輩!」


授業が終わって、急いで仁王先輩の教室に来た。
最近、仁王先輩の様子がおかしい。俺に対する態度があからさまに冷たい。
だから、一緒に帰れる放課後だけが俺の楽しみなんだ。


「あっ、丸井先輩!仁王先輩は?」

「仁王?そーいや…なんか女子と居たな」

「え…?」

「鞄持ってたから帰ったと思うぜぃ」

「……」


そんな、嘘だ…。
最後の繋ぎとも言える術を。
ねぇ仁王先輩。なんで俺から逃げるの?


「赤也一緒に帰ろうぜぃ」

「あ、はい…」


流れで丸井先輩と帰る事になったけど、ショックが大きくて何も考えられない。


「赤也お前さ、仁王と何かあったの?」

「え?なんでッスか?」

「さっきから元気が無いから」

「……っ」


元気が無い?
ううん、大丈夫。
だってちゃんと覚悟してた。仁王先輩はそういう人だって、好きだからこそ分かってた。
でもやっぱり気になる。
だって俺と仁王先輩は付き合ってるんだから。


「仁王先輩に電話していッスか?」

「んぁ?構わねーぜぃ」


すんません、と言って携帯を開ける。電話帳を開くだけなのに指が震えていた。

ピッ…

プルルル……


「あ、もしもし仁王せんぱ…」

<んっ…はぁ…>

「!!」


思わず携帯を落としそうになった。
だって電話越しに聞こえてきたのは、仁王先輩の声では無く女性のあえぐ声。


<気持ちええんか?クッ…淫乱じゃのぅ>


続いて聞こえてきたのは仁王先輩の声。
…その言葉は、俺に掛けていた言葉。


「そっか…そんな程度だったんだ」


俺に向けた仁王先輩の愛は。

丸井先輩が不思議な目でこちらを見ている。


「…仁王先輩、聞こえますか」


未だあえぎ声が聞こえるが、一応喋ってみる。


<…あぁ>

「そッスか。俺、言いたい事あったんスけど…やっぱり、もう今決めたんで良いッス」

<…何がじゃ?>


いつもと変わらない冷たい声。だけどそれすらも愛おしいと思う俺はなんて皮肉なんだろう。


「俺、レギュラーなったばっかで、夢もあるッス。でもそれよりも仁王先輩が大好きでした。この三ヶ月間…と言うか、今までありがとうございました」

<何が言いたいんじゃ>

「…仁王先輩に捨てられた俺はもう生きてる意味がないッス」

<…赤也?>

「ははっ…最後に名前呼んでくれて嬉しッス」


仁王先輩が今の俺を不審に思ったようだ。
目の前に居る丸井先輩は、まさか、と固まっている。


「本当、俺、一時でも幸せでした。仁王先輩、…さようなら」

<…!!赤也!?あかっ…>


プツッツーツー


仁王先輩の叫び声が聞こえたが、無理矢理切る。
そして丸井先輩に微笑みかけた。


「…赤也?何をする気だよ…?」

「俺はもう、」


そう言って鞄からナイフを出す俺。


「!?そんな物騒なもんしまえって!!」

「ずっと…苦しかったッス。だからこのナイフ、いつも持ち歩いてたんス。仁王先輩に必要とされなくなった以上…」


静かに心臓にナイフを当てた。









「あか…や?」


あの後丸井から悲鳴にも似た声で電話が掛かってきた。急いで丸井と赤也の居る場所に駆け付けた。

でもそこは、へたりと泣き崩れる丸井と、血でまみれて動かない赤也の姿があった。


「電話…もっと早くしんしゃい…」






後悔、なんて悲しい人間がするものだと。






end...
 

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