お題

□ほんの少しの出来心
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そう、それは、

少し興味があっただけで

別にちょっとした反抗期で




あんな事になるなんて、思ってもみなかったから。








夜中抜け出して酒、煙草は当たり前。
無免許でパクったバイクに乗って、最近填った薬をやって。

毎日それをエンドレス

丸井先輩と付き合ってるから、女には手を出さないけど。
毎日が荒れた日々を送っている俺は、もう何を求め生きているのか分からなくなっていた。


「……だから此処にχを代入して…」


授業中すら薬が愛しくなる。
めまいに襲われて、すがるように薬に手を出す俺はなんてどうしようもないんだろう。


「センセ…具合悪いんで、保健室行って…いいッス、か」

「大丈夫?医師の先生居たかしら…」

「でも大丈、夫ッス…」


吐き気がする。
副作用があるのは知っていた。
仲間の色んな先輩を見てたからどんなに苦しいかも知っている。

でも、俺は手を出してしまった。


丸井先輩はこんな俺に反対している。
夜中抜け出すのは止めろ、薬には手を出すな。
そう言われれば俺は分かったって言うけど、夜になると体がうずきだす。


「…やっぱ居ない」


保健室前の壁に掛けられた"外出中"の文字。
でも良かった。居たら絶対やってる事バレる。

内ポケットからいつもやってる薬を取り出して、口に含む。


「はぁっ…」

「赤也」

「!??…に、仁王先輩か…」


いきなり名を呼ばれ驚いて振り向けば仁王先輩が居た。
一瞬、丸井先輩かと思ったからかなり驚いた。


「まだやってんのか、お前は」

「…止めようと思って止められるモンじゃないんスよ」


そう。
一度堕ちれば自力で這上がってなんてこれない。


「そんな事より、仁王先輩もやりませんか?コレ。かなり良いッスよ」

「やらん。…丸井が悲しむぜよ」

「え…?」

「いや、なんでもなか。赤也、お前そのままじゃいつか足元を救われるぜよ」


その時俺はその意味を理解出来なかった。

なんで、もっと理解しようとしなかったんだろう?

ひたすらそう思った。


「あ…」

「?」


途端、視界がぼやけたと思うと、目の前に丸井先輩が居た。

いや、丸井先輩ではなく仁王先輩だけど。

薬のせいで見える幻覚に戸惑う事なく俺は仁王先輩に抱きついた。


「赤也!?」


様子がおかしいと感じたのか、仁王先輩はいつもより声を張り上げた。

分かってる。
分かってるんだ。

この人は仁王先輩であって丸井先輩では無い。
でも


「へへ、まるいせんぱい…」


身体はゆうことを聞かなかった。

へら、と笑ってキスを求める。
仁王先輩は顔を反らすも、俺が抱きついているせいで思うようにいかず唇と唇が重なった。


ガタンッ


いきなり、ドアの開く音がして。
そちらを見てみれば丸井先輩が居た。


「何やってんだよ…赤也!!」

「あれー…まるいせんぱいが二人いる…」


虚ろな目でまたへらりと笑うと、丸井先輩は絶望的な顔をした。

違う。
そんな顔をさせたかった分けじゃ無いんだ。

ただもう…手遅れなだけで


「仁王…どういう事だよ…」

「こいつが俺と丸井を間違えてキスした。…まだ薬やってるんじゃ、赤也は」

「は…?くす、り…」

「あは、」


こんな俺を見る度にその顔。
悲しそうで、それでいて怒ってる。
でも、何も映ってないような気もする。


「赤、也…」

「最低じゃ、こいつは」


最低だって。
まぁそう言われてもしょうがない状況だけど。


でも、丸井先輩。
俺を捨てないで、独りにしないで。


「ホント最低だよ…。もう無理。別れよ、赤也」


やめてやめて
その言葉は聞きたくない

俺が悪いです。

でもそしたら怒ってよ
もっと怒って

生きてる事を実感する術は、薬をやることしか見つからなかった。
だってそうすれば丸井先輩は怒ってくれる。

そうでしょう?

だから今の言葉は




「ばいばい、赤也」





聞きたくなかったのに。


ピシャン、と音を立てて出ていく丸井先輩。
残された二人。


「泣く程なら薬なんかやらなきゃよかったのにの」


仁王先輩の放った言葉が、胸に酷く突き刺さった。





もう薬によがる意味も無いけれど、この溺れ出した地獄からは抜け出せず




ぽっかりと空いた穴を埋めるために、また






俺は夜を待つんだ。





end...
 

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