小説
□穏やかな午後
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ユーリはテーブルに広げられたルーズリーフとにらめっこしながら、
小さく、溜め息をついた
10分ほど前
自室で新曲の歌詞作りをしていたユーリは気分転換に、とリビングにやってきた
その時、アッシュが「掃除をする」と言いだしたので仕方なく移って来たのだ
…我ながら優秀な家政婦を持ったものだと、更に溜め息を重ねた
窓の外に目を向けると暖かな日溜まりが庭を、部屋を明るく照らしている
空はどこまでも続く薄い蒼で、雲一つなかった
眩しさに目を細め視線を戻すと目の前には…白紙のルーズリーフ
新曲発売までまだまだ時間があり、別に急がなくても平気なのだが…
ここまで思いつかないのは正直、酷い
本当に間に合うのかと、ユーリは呆れたように小さく息を吐いた
「……3回目。」
「かごめ…か」
いつの間にかソファの横にかごめが立っていた
片手には赤茶色の表紙の本がある
かごめは音も立てずに、ユーリの座っているソファの端に座った
「紙に向かって溜め息ばかりしてる。」
そう言うと一度ユーリの顔をじっとのぞき込んでから、持っていた本を開いた
しばらくの間、部屋に沈黙が降りる
聞こえるのは本をめくる軽い音だけ
静けさに包まれながら、ユーリはかごめを見つめた
「何?」と細い首をかしげる
「確か…この前それは読んだと言っていなかったか?」
白い手で、かごめの手にある本を指差す