Short Novel 2

□愛されあかねの一日
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「わはははっ大漁じゃ大漁じゃ〜!」

盗んだ下着を包んだ風呂敷を、ホクホクと大事そうに抱えて帰ってきた八宝斎。

居間に足を踏み入れた瞬間、たまたま女に変身していたらんまがグシャリと踏み潰した。

「このエロじじぃ、また性懲りもなく!」

「おおっらんま、丁度良かったわい。ほれ、これを付けてみい」

腹を立てるどころかご機嫌で差し出したのは、
繊細なレースをこれでもかとあしらった、淡いパステルブルーの清楚なブラジャーだった。

「ふざけんなっ!」

「あかねちゃんのブラジャーじゃぞ!」

「なっ」

悲しいかな最近では自分でも身につける機会が多いおかげで下着自体は見慣れてしまっているらんまだが、
あかねのものを不意に突き付けられてはさすがに怯む。


「ちょっと、おじいさん!返してよ!」

そこで声を荒げたのは勿論あかねだ。

呑気にテレビを観ていたというのに、突然降って湧いた災難に顔が真っ赤だ。
慌てて八宝斎を追いかける。

「嫌じゃ嫌じゃ!わしが貰ったんじゃ!」

「あげてませんっ!」


八宝斎が庭へ飛び出したのが悲劇の始まりだった。

縁側にあったツッカケをひっかけ飛び出したあかねを、
らんまもヤレヤレと諦めたように裸足で後を追う。

そして手を伸ばしたあかねよりも先に八宝斎を踏み付け、あっさり下着をぶんだくった。

無事取り返した下着を「ほらよ」と差し出したものの、当のあかねは更に真っ赤になった。


「きゃああ!もう返してよ、バカッ!」


おま…!取り返してやったのになんて言い草だ!


そう文句を言うより先に、らんまの体がグラリと傾いた。

八宝斎の返り討ちにあったのだ。左頬に蹴られた衝撃が走る。

しかも、らんまが掴んでいた下着をあかねも掴んでいたせいで、一緒に引っ張られるように傾いた。

そして二人の倒れる先には、



…池。



「だああああ!」
「きゃああああ!」

ばっしゃ〜ん!



暴力的に照り付ける太陽の日差しはまるで昨日の事だったように覚えているが、
今はもう涼しい風が心地よい秋の季節だ。

あかねが風邪をひくのは、一瞬だった。


その夜には寒気を訴え、次の日の日曜日には熱を出し、
結局その日一日寝込んでしまったのだった。


授業に穴を開けたくない大事な時期に、とんだ災難ではあったが。
いつ何が起こるかわからないのが、天道道場。

ちょうど休日だったのは不幸中の幸いだったかもしれない…とでも思わないと、とてもやってられない。





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