アオイトリ
□アオイトリ〜始まる日〜
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「……楠木先生?」
「やっ、えと、だってみっともないでしょう? もういい歳なんですし、別れ話で揉めるなんて……」
「真剣に付き合ってたのなら当然のことだと思いますが。まして、彼とは結婚を約束していたとお聞きしていますが?」
あ、そうか……。彼にプロポーズされたときに、校長には話していたんだっけ。結婚したらどちらかが学校を移らなきゃならないかもしれないから。
校長め、私たちが言うより先に理事長に話しやがったな。
あああ、校長にも別れたこと言わなきゃなんないのか。
もう、何だか何もかもが面倒くさくなってくる。
……辞めちゃおっかな。
「駄目ですよ、辞めるなんて」
「ひょぇ?!」
読心術!? 読心術なの!?
おののく私だったけれど、実際は声に出てたらしい。
「裏切った男の為に、何故貴女が職を辞さねばならないのです? 辞めるべきなのはあの男のほうだ」
思いがけない語句の強さに驚いて顔を上げると、怖いくらい真剣な瞳をした理事長が私を見ていた。
嵐の前の空ような、銀灰の瞳に視線を囚われて。
思わず息を飲む。
「り……、」
「暁臣、と」
吐息を近くに感じて、やわらかなものが唇を塞いで。
キス、されてる……?
「……!? ――ンんッ!」
覆い被さるように唇を重ねられ、慌てて押し退けようと両手で突っぱねるが、そのまま逆に腕を捕られて胸の中に抱き込まれてしまう。
「……ぁ、んぅ…んっ」
首を振って逃れようとしても、後頭部をガッチリ捕らえられててそれも出来ない。
食まれ、吸われ、舌が絡む。
ナニコレ。何で―――、
息も奪われるくちづけに、離されたときにはグニャグニャになってしまっていた。
ピチャリと、オマケのように唾液で濡れた唇を舐められる。
初めて味わうような激しいキスに荒い息をつく私は、もう何がなんだか。
いつの間にか抱き上げられ、何処かに運ばれているのも気がついてなかった。
っ、て、ぇえ?! なにこの状況!
「り、じちょう……っ、下ろしてくださ……」
いわゆるお姫様だっこで向かった先は理事長室。
「ひゃっ!」
お高そうなソファに投げ出されたと思ったら、再びキス。
「ん、…ゃめ…っふ……っ」
さっきみたいに乱暴なモノとは違って、今度は甘く、やさしいくちづけだった。
下唇を甘噛みされ、舌先で味わうようにされ、不覚にも酔ってしまった。勝手に吐息が漏れる。
「……っふは…、ぁ…」
くったりと力をなくし横たわる私を見下ろして、彼はささやいた。
「イイ顔ですね……もっと見せて下さい……」
私のブラウスのリボンタイを解き、ボタンを外す動きに躊躇は見られない。
下着に包まれたふくらみに唇を落とされ、身をすくませた。
――正気に戻ったともいう。