アオイトリ
□アオイトリW〜眠る檻〜
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「…本当は妹で誤魔化すつもりだったんですが、逃げられてしまって…」
誤魔化すとか逃げられて、て、どうゆう兄妹なの。
理事長の言い訳をバックに、私は鏡の中の自分に向き直る。
キュッとアイラインを濃く入れて、眼差しを強く。
ゴールドのアイカラーと、ローズレッドのルージュ。
重ね付けしたマスカラにラメを入れて、チークは控えめに。
アップした髪にストレートロングのエクステを付け、調節したら出来上がりだ。
問題は、急遽用意したカラーコンタクトにいつまで私が我慢できるかだけど。
「…オンナ避けって、こんな感じでいいですかね?」
ドレッサーから離れて、衝立の後ろで私の着替を待っていた理事長の前に姿を見せる。
「……すごいですね茅乃さん」
ラメの入った黒のタイトドレスに身を包み、顔を作った私をボォッと見つめる理事長。
うんよしよし。
素がわかってる理事長がこうなるってことは充分騙せるわね。
強引なお迎えの理由に最初は断固拒否する構えだったけど、
パーティーで寄ってくる女性達を避けたいのだと困り果てた理事長があんまり情けない顔をするものだから、負けてしまった。
素のままの私が出席する訳にもいかないので、変装を条件に。
姿見の前でストールを整えてクルリと最終チェック。
変装コンセプトは気位の高いお嬢様。
知り合いが見ても楠木茅乃とはわかるまい。
私は女優、私は女優。
「呼び方はどうします? 暁臣さん? 暁臣? いっそ様付けとか?」
「…さん、で良いです…」
呼び捨てにも惹かれますが、とブツブツ言ったあと、気を取り直したらしく、いつもの落ち着いた笑顔に戻り…手を差し延べてくる。
「うちは外資系なので外国の方も多くいらっしゃいますが、会話のは大丈夫ですよね?」
「まぁ一応英語教師ですから」
てゆーかあまり話しかけられるようなら逃げるし。
「では、貴女は婚約間近の私の恋人、ということで」
「…ボロが出ないように頑張ります」
私は女優、ともう一度唱えて理事長と腕を組む。