月欠片。
□猫に鰹節。SS
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*after that*
みゃーこちゃんとキチンと暮らすからには、いつまでもプーでおるわけにもいかんということで、俺は仕事を決めてから、彼女の元へ帰った。
一ヶ月ぶりの彼女の肌を散々味わい尽くしてから、これからのことを話す。
「…仕事? するの?」
し終わったあとのみゃーこちゃんはポヤポヤと眠そうで、普段よりゆっくりめに話す。
こめかみに口づけながら、密着するように腕に抱き込んで、うん、明後日から、行ってくるわと言うと、何故かむうぅっ、と膨れて、次に眉が下がる。
「みゃーこちゃん?」
「…別に働かなくてもいいのに、と思う自分の勝手さにちょっと自己嫌悪」
俺の首筋に頬を擦り付けるようにする可愛い仕草に、また欲望に火がつきかけるが、グッと我慢して。
なんで? とささやく。
「家に、ずっといればいいのにって……、奥さんに、お前は家のことしてればいいんだよって言う、横暴な旦那と変わんないこと思っちゃった」
ごめん、月哉くんだって働きたいよね、としょんぼりするみゃーこちゃんをぎゅっと抱きしめる。
やって、みゃーこちゃんがそう言うのには理由があるやろ?
…あの朝、突然消えてしまった俺。
何も黙って行くことはなかったんじゃないかと、自分でも何度も思った。
だけど、いつでも帰れる場所――逃げる場所があれば、芦原の両親との弁護士を通しての話し合いや、桧野の祖父母に真実を話すことが出来ないと思った。
支えたかったのに、と泣きながらみゃーこちゃんは言ったが、俺は寄りかかりたくはなかったのだ。
支えられるのと、寄りかかるのは違う。
ずっと、これからも、みゃーこちゃんと一緒に居るためには、一度、自分一人で立たなければいけなかった。
ごめんな、みゃーこちゃん。
不安やったんやな。
だから、俺が家を空けるんが怖いんやろ?
もう帰ってこないんじゃないかと思って。
俺の帰る場所は、みゃーこちゃんのところだけやから。
みゃーこちゃんもそう言うてくれたやん?
ただいま、言うて、
お帰り、言うて、
同じ家で、
長い長い時間を、これから共にするために、俺は帰って来たんやから。
それに稼ぎがないと、いつまでたってもプロポーズなんかでけへんやん、という呟きは、眠ってしまったみゃーこちゃんに届いたかどうか。
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