月欠片。
□猫に鰹節。SS
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「……え、みゃーこちゃん? これ何」
仕事から帰ってくるなり、みゃーこちゃんが俺に渡した小さな包みを開けると。
プラチナの柔らかい輝き。
僅かに歪んだようなデザインの、シンプルな指輪を前にして俺は眉を寄せる。
「プレゼント。勿論はめる指は分かってるよね?」
何で目ぇ座っとんの……。
不機嫌な様子のみゃーこちゃんの視線を感じつつ、恐る恐るソレを指にはめる。
左手の、薬指。
指にはまった様子を見ると、ますますコレって……。
みゃーこちゃんはよしと頷き、にっこり笑って。
「…今日ね、お昼に時間があったから、後輩の子達と外にランチに行ったの。
ちょっと職場からは離れてるんだけど、何とか行けてね?」
話の流れがわからず、うん、と頷くだけの俺。
「夜はバーになるらしい、オシャレなカフェで、ランチもスッゴい美味しかったの。また店員さんがイケメン揃いで女の子がきゃーきゃー」
…途中から、変な汗が流れるのを感じた。
「後輩の子のイチオシは、最近入ってきた関西弁の男の子で、まだ数日しかたってないのに、既に告白された人数は両手に余るんだって。…私達が行ったときは、丁度休憩中だったみたいで、彼、
居なかったんだけどね〜」
「み、みゃーこちゃん……」
「ソレ。外したらダメだよ?」
可愛らしい迫力笑顔にはい、と頷く俺。
まるで結婚指輪みたいなソレに、
俺は嬉しいような(みゃーこちゃんがヤキモチ妬いてくれた〜)、
哀しいような(先越された〜…)、
トホホな気分で床にのの字を書く。
逆や〜ん、男と女が逆や〜ん。
それでみゃーこちゃんが不安やなくなるんやったら、いくらでも指輪なんかつけるけど、
先に俺が渡したかった……!
甲斐性のない自分に少しヘコんでいると、すれ違い様、ペシリとねこが尻尾で俺を叩いてきて。
トドメを刺された気分になった。
終