月欠片。


□猫に鰹節。SS
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「バカ。何言ってんだ」


くい、と眺めてた手を強引に引っ張られた。

「バカゆうなー! アホゆえー!」

うちはお父ちゃんの血を濃お引いとるから、バカっちゅー言われんの我慢でけへんねんでぇ。

「ああハイハイあほやな、あほ峯子〜」
「きぃ―! シャッチョに言うたるー! 皇矢がうちのことアホ言うたてチクったるー!」
「何で親父が出てくる」

言い争いながら、うちらは手をつないだまま、お隣さん同士の家に帰る。

コーシとつないだ手はあったかくて、人間さんも悪ぅないなぁ、とうちはホンノリ思うた。




「ねこおおおおぉ! よかったあ、いたあぁ〜!!」

みゃーこちゃんの声に、びっくりしてうちはシッポを逆立てた。

家から近い公園に家出してたはずのうちやってんけど、まんまと発見されてしもたらしい。

ムギュウ、と抱きしめられて、夢から覚めたばっかりのうち身体は戸惑ったまま。

「黙って外行っちゃダメじゃない、ねこさらいが出るわよ、ねこはこんなに可愛いんだから!」
「うわ〜、みゃーこちゃんまだそれ引っ張るん……」

…聞きなれたみゃーこちゃんと月哉の声に、うちは耳をぴくぴく動かした。

あれえ?

うち、誰かと居ったはずやのに、思いだせへん。

何か、すごくあったかかってん…。

「アレねこの友だちか?」

月哉が首を巡らせて、上の方を見た。

塀の上に珍しい毛並みの灰色猫が居った。

「あの子がね、ねこが居るとこ教えてくれたのよ?」
「こっちやで〜、みたいにな。助かったけど、何や気にくわん……」
「何それヤキモチ? ねこだってボーイフレンドくらいいるわよねぇ?」

うちを覗き込んで言うみゃーこちゃんに、違うえ、ボーイなんたらとちゃうって、と訴えるけど、聞いてくれへんかった。

と、ジロリと月哉が灰色猫を睨んだ。
「……許さへんし…」
「バッカじゃないの」
「バカ言うた!? あかんで、みゃーこちゃん、アホて言うてくれな!!」

騒がしい月哉のアホは放っておいて、うちはソイツを見た。

毛並みと一緒のブルーグレイの瞳が、うちを見て、細められる。

なぁ。

一声鳴いて、去っていく。



またな、て言われた気がした。





うちはねこ。

さっきまでお腹すいとったけど、なんや知らんけど、今は胸が一杯なんよ。



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