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「やっとわかりました。大好きな絵を描いたひとなのに、名前を知らないなんてあんまりですもんね。有難うございます」


「……それ、計算?」


はい?

意味がわからずキョトンとするわたしを彼は眉をひそめて見つめた後、

もう一度吹き出す。

「悪い。そんな頭が良さそうでもなかったね。天然か…」

何だか悪口を言われてます……。

言われっぱなしじゃ悔しいので、取り敢えず上級生らしい彼の名前を訊こうと口を開き、

「お前の名前は?」

先を越された上に、お前ときました……。

「……早瀬、夕翡です」
「ユウヒ?」

チラと“夕陽”の絵を揶喩するように見て。

「夕方の夕に、翡翠の翡です」

持っていたノートを掲げて文字を見せ付ける。

「ふぅん……一年生。外部組だね、僕を知らないってことは」

? 有名人なの、この失礼なひと。

「あの、」

「この絵が好きなの?

 どこが?」

――どこ。

「って、言われても……、わたし絵の難しい事はわかんないんですけど、」


見てると寂しくて、切なくて、ギュウってしたくなります。

この絵が求めている誰かにわたしがなれたらいいなって……、


「……頭悪いね、君。好きなところって訊いたのに意味不明だし」

クス、と馬鹿にしたように笑われて、わたしはムカっとしてしまった。

何だか、このひとにはわたしの気持ちを否定して欲しくなかった。

「そういう感じ含めて全部、好きってことなんです! 好きは好きなんです、そう思う心に理由付けちゃダメなんです!」

リキんで言うと、眉をしかめられ、

「……逆ギレ? まぁでも、―――いよ、そういう馬鹿」

「へ?」


見上げると、
降りてくる、
ささやきと、

それから――


「? ………っ?!」

ばばっ、とオデコを押さえるわたしに向けられる、


意地悪で、

綺麗で、

楽しそうな、

笑み。



   「嫌いじゃないって言ってるんだけど。何度も言わせないでくれる?」



ヒラヒラ手を振って、去って行くその背中を見つめながら、

耳まで真っ赤になったわたしは、

結局彼の名前を訊き忘れたことを、だいぶ後になるまで気が付かなかった。



…To be continued.

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