アオイトリ

□アオイトリ\〜波紋〜
3ページ/16ページ



 ノックの音に、立ち上がる。
 扉を静かに開けて、田崎教諭がそっと顔を覗かせた。準備が出来たようだ。
 藤岡くんを振り返ると、迷いを吹っ切った顔で、ネクタイを締め直していた。

 行けるかと目で確認すると、頷いて歩き出す。すれ違う間際、隣に並んだ藤岡くんは、声をひそめて、悪い、と私にささやいた。

「……もしかしたら、以前婚約していたことで、お前に追及のとばっちりが行くかもしれない」

 そんな場合じゃないけれど、笑いが漏れた。どこまでも律儀なんだから。

 そんなこと、最初から承知してるよ。何のために今まで秘密にしていたと思うの。
 理事長との関係だって――、否、それは今論じることではない。

「その時はその時。私だって知ってて黙ってたんだから、共犯でしょ」

 更に謝りそうな気配を感じて、それ以上言わせないために、私は彼の脇腹を殴って言葉を封じた。



 会議室に入ると、既に前理事長、古賀父はいらしていた。
 こちらを見て、愉快げに上がる眉に(お願いですから今日は何も言わないで下さいね〜)とドキドキしながら会釈し、空いている席に着く。

 こっそり首を巡らすと、うちの教諭しか着席していないことに気づいた。他の理事の方々もいらっしゃるはずだと思っていたけれど……、

「大体揃ったから始めようか。ちなみに、理事連は私に一任するということで、こちらにはお見えになっていないので」

 その私も代理なんだがね、と深刻さの欠片もなくあっさり言い置いて、前理事は藤岡くんに視線を向けた。
 起立したままだった藤岡くんは、それを受けて一礼。
 前理事の手元にはWebニュースをプリントアウトしたもの、壁新聞のコピーらしき数枚の紙がある。

「さて、藤岡先生。こちらに入った一報では、君が特定の女生徒と親密な関係にあるとのことだったが、それに相違は?」
「ありません」

 さっきまでのヘコんだ態度はどこへ行ったのかと思うほど、藤岡くんは堂々と発言した。

 先生方が軽く息を呑む。
 リベラルな考え方をお持ちの方は面白げに、お堅い方々は眉をひそめて。
 前理事ご自身は――面白がってる。あの目は絶対そうだ。

「報告にあった女生徒と、将来を視野に入れたお付き合いをさせていただいております」

 おお言った。
 同時に、何人かの目が私に向けられましたけど。
 はいはい、ふられんぼですよー。

「――ですが、こちらの写真に取られた行為は、校内で取るに相応しい行動ではありませんでした。いかようにも処罰をお受けします。――ただ、彼女は卒業まであと少しです。寛大な措置をお願いいたします」

 ばれた時の覚悟はしている、と言っていた通り、藤岡くんは責任を全て一人で取るつもりなのだ。
 彼は言い訳はせず、それ以後口を閉ざした。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ