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□COLOR/スペシャルデイズ
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「うわさ、なんですけどね。作者さん、ずっと書かれてなかったけれど、もうすぐ新しい本が出るって、聞いて。すっごく楽しみで」
初めて読んだのは、まだ恋も知らず、ただ人を好きになるということに憧れていた子供の頃。
主人公の淡い好意が、時を経て恋になっていくのを、物語を読みながら自分のことのように感じていた。
その分、あの結末がわからなくて、わからないのは自分がまだ子供だからなのかなと無理矢理気持ちを納得させて、だけど封印するように最後の物語だけ手にすることはなかった。
宵暉先輩を好きになって。
恋を知って。
今なら、少しはわかるだろうかと、また読み返し始めたけれど。
やっぱり、まだわからない。
いつか、もし、彼の傍にいられないときがやってくるとしても。
わたしは、ずっとずっと好きだと思うから――他のひとなんて、考えることも出来ないだろうから――。
「……気にくわない」
「ふぇっ?」
気付いたら、柔らかいものの上に寝転んでいて。
天井が見えていました。
「はっ、はわ、しょーきせんぱ……」
「夕翡がそういう顔をしていいのは僕のことでだけ。百万歩譲って僕の絵を見ているときだけ。他人のことを想ってそんな顔するのは許しません」
動けないようにわたしの膝に軽く腰かけて、ソファにわたしを押し倒した先輩がニッコリ笑う。
はわわわ、ウットリですが危険です!
宵暉先輩のこの笑顔は危険なのです!!
「せ、せんぱ、お客さまが来られるんではっっ」
「待たせとけばいいよ」
そうなのだ。
今、わたしたちがいるのは宵暉先輩のお家が経営するホテルの一室で。
よくわからないけれど、画家である先輩に会いたいというひとがこれから来るらしいのだ。
めちゃくちゃ不機嫌に渋る先輩にお付き合いで(というか拐われて)わたしもここにいるんだけど。
「だ、ダメですー! わわわたしはお出掛けしてますから! 椎ちゃんに頼まれたお土産買ってきますねっ」
あやしい動きをする宵暉先輩の腕から逃れて、素早くバッグをひっつかむ。
ち、と舌打ちした先輩が恨めしげに立ち上がったわたしを睨んだ。
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