SPECIAL


□花風〜Sweetdream〜
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――哀しい夢を、見ていた。




Sweetdream





「果林? どうした」

横たわったまま起き上がらず、潤んだ目から涙を流れるままにしていると、隣で寝ていた夫が覗き込んできて。

見慣れたはずの、彼の顔に違和感を覚えて、ゆっくり瞬きする。

ん? と訊ねるようにこちらを見る彼の瞳は、ひたすら甘い。

「……なんだっけ、なんか……めちゃくちゃ哀しい夢見てた」

「――実際泣いてるくらいなんだ、よっぽどだな」

粒になって頬を滑る涙に唇を寄せて掬い取ってくれる。
そんなやさしい仕草にも、違和感を覚え。

また、涙が溢れる。

「おいおい、ホントにどうした? ガキの頃みたいだな」

膝の上に抱えられ、ポンポンと背中を叩かれて。

子どもみたいでいい。
抱きしめられたぬくもりを、逃がしたくなくて、しがみついた。


――だって。

いなかったの。

あの夢の中には、一番必要な人物が、居なかった――



「ほら、いい加減泣き止んで、目を覚まさないと怪獣姫が突撃しに来るぞ」

その彼の言葉が終わらないうちに、軽くも騒がしい足音がこちらに近付いてきて、ドカンとドアを開ける。

「おかーさんっおとーさんっ、外、晴れたよー! お花見、行こうっ」

飛び込んできた鮮やかな明るい笑顔。

結婚してすぐに授かった、今年八つになる娘は、子供の頃の夫によく似ている。
女の子にしてはりりしい眉、我の強い瞳に、こまっしゃくれた物言い。

夫に言わせると、気が強いくせに泣き虫な性格はお前似だ、ということらしいけれど。

「おー? なんだ実花。もう用意出来てるのか」
「だってぇ」

ベッドから降りる間際にあたしの頭をかき混ぜて、駆け寄ってくる娘を片手でヒョイと抱き上げる彼。

昨夜寝る前に約束していたお出掛けを期待して、娘の実花はご機嫌だ。

「おかあさんっ、はやくっ、お弁当つくろう」

輝くような笑顔に微笑み返して、あたしは夢の残滓を振り払った。


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