「貴女次第ですよ? どうします……?」右手に書類を振りかざし、にっこり笑う彼は非の打ちどころもない好青年。……だと、思っていた。昨日まで。背の高い、二つ年下の上司を睨みつけ、私は一歩踏み出す。近付く私に彼は満足そうに微笑んで。この判断が、さらなる不幸への序章ではないことを、信じてもいない神様に祈った。何でこんなことに……。楠木茅乃、高校教師二十七歳。先日、婚約者に振られたばかりの傷心乙女(いいのよ乙女で)。ア オ イ ト リ 〜始まる日〜