Sweet
□Bitter*SS/White迷図
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いまだかつてこんなに恐ろしいホワイトデーがあっただろうか。いや、ない。
12日の夜掛かってきた電話、ヤツが言うことったら、
『明後日休みだよな? 酒奢ってやるから、明日、店に来い』
有無を言わさぬ命令形。
仕事だもん! と拒否る間もなく先回りされる。
『もちろん仕事終わってからでいいぞ。俺も仕事だし。何なら仕事仲間も連れてこいよ、』
――ただしちゃんと紹介してもらうけど。
そう言われてあたしが素直に連れていくと思っているのか!
思ってないに決まっている。
伊達に20年幼なじみをやっていない。
“恋人として”紹介できるほど、あたしが伊織との関係を開き直っていないことは重々承知の上で言ってるんだ。
あんにゃろう。
でもってそういう口調の伊織に、あたしが逆らえないことも、お見通し、なんだ。
「イラッシャイマセ」
ムッツリ唇を引き結んだあたしを出迎えたのは、当然、伊織だった。仏頂面のあたしにニヤリと意地の悪い笑みを一瞬閃かせ、営業スマイルを向けてくる。
今日の伊織はいつか見たときのようなバーテンダーな格好ではなく、黒いシャツにパンツ、店員だとわかるのは胸につけた名札のみ。
いつもはボッサボサで流してるだけの茶髪は額を出すように整えられている。
移動に合わせておなご共の目線が動くってスゴいわよね、どうでもいいけど皆様ついでにあたしを睨むのはやめて頂きたい。
入り口から奥のカウンター席までエスコートされて、お前はホストかとツッコみたくなった。
カウンターの一番端っこのスツールに座ると、伊織は中に入って、シェーカーを手にした。
「いおが振るの?」
「お前のはね」
さらりと流されて、何だ、毒物でも混入するんじゃないだろうなとつい疑いのマナコになってしまう。これも日頃の行いだ、悪く思うな。
この店名物である美形店員くんの一人が、ニコリと笑ってピッツァが乗ったプレートを出してくれる。
伊織の奢りってことだよね。
空腹に負け、ドライトマトとチーズ、バジルトッピングのそれに手を伸ばした。
「む! んん! ふふぅ〜〜!」
「人言語で話せ」
ピッツァを口にして、ジタバタ喜ぶあたしに呆れて言う。
ふんと無視して二枚目に取りかかった。
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