トリハナニイロ

□ふぁーすと・でいと?
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 ―今、外に出ているので待ち合わせて食事でもしませんか。

 そう、暁臣くんから電話がかかってきた、週末の午後。

 指導要項もまとめ終わったし、部活で使う舞台脚本資料が欲しかったから、出掛けるのは丁度良いかとオッケーして、当の本屋を待ち合わせ場所に決めて用意して。

 ハタと気付いた。

 あれ、これってちょっと、

 デ、……デートみたいじゃない?(なにこの動揺)

 いやいや、今までも二人で出掛けて食事して(部屋に連れ込まれて)るけどね?

 外で待ち合わせ、とか、したことなかったし……?

 暁臣くん、車かしら、電話の様子じゃ徒歩っぽかったけれど、暁臣くんが徒歩で移動してるって想像できないし、だいたい待ち合わせするってこと自体、ものすごく珍しい、わよね?

 いつも当然のように拐って行かれちゃうし。
 車で移動だし、街を二人で歩くなんてしたことないし……。

 いやいやいやいや、考えすぎだってー。
 今さら私もデートごときで狼狽える年でもないしーー。

 ……何着てこう。

 ワンピース……ハリキってオシャレしてるみたいでヤだな。
 夜は冷えるから、上着必要よね。
 あんまり歩くなら、ヒールの高いのは止めよう。
 ていうか泊まりの用意はいるかな。

 いろいろ余計なことを考えてるうちに時間がせまり、結局化粧もそこそこに私は家を飛び出した。


 デートじゃないデートじゃないったら!!

 妙に熱くなる頬を意識しながら、待ち合わせ場所に辿り着く。

 特に何処、と言ってた訳じゃないけど、実は暁臣くんを見つけるのはわりと簡単だったりする。
 周りにいるひとの視線を辿れば良いんだ〜。

 ちら、ちらと振り返りつつ通路を行く女性とか、何だ? 芸能人? なんて興味深げに何人かが目を向けている先に――、いる。

 何故か絵本コーナーという違和感ばりばりの所に見慣れた栗色の頭を見つけて、私はそちらへ歩み寄った。

 数冊の絵本を見比べている暁臣くんに背後から近付き、覗き込む。
 手に持っていたのは、やたらシュールな人々が密集している、絵ばかりの本。
 ……悪夢を見そうなんだけど。
 暁臣くんもそれを見て、すごく渋い顔をしている。
 疑わしく訊いてしまう。

「…………コレ、誰かにあげるの?」
「朔耶になんですが……」

 無意識に答たんだろう、ギョッとして暁臣くんは私を見た。
 めずらしい、気付いて無かったんだ。

「茅乃さん、いらしてたんですか。すみません気付かなくて」
「ううん、すぐ見つかったし。ていうかソレ、ホントに朔耶ちゃんに贈っちゃっていいの? トラウマになりそうなイラストなんだけど」

 眉をひそめて私が言うと、暁臣くんは疲れたように視線を他所へやった。

「……これがいいって本人の希望なんです……」

 はあ……朔耶ちゃんたら可愛いのに変わった趣味。

 絵本をラッピングしてもらって、私の目的の本も購入して、店を出る頃には晩御飯を食べるにはいい時間になっていた。
 そこで暁臣くんが意外な一言を。

「……すみません、茅乃さん。食事に誘っておいて店の予約、してないんですが」

 ほへ、と間抜けな声を出してから、私は申し訳なさそうにしている暁臣くんを眺めた。

 あらホントに珍しい。
 いつもキッチリ予定を決めてる彼なのに、今日はどうしたっていうのかしら。

「別に構わないけど。じゃあ、歩きながら入るところ探す?」
「この辺りはあまり知らないんですが」

 まあそうよね、いつも車だもんねー。

「茅乃さんはこの辺りは?」
「まあ良く友達と来るかな……」

 行き交う人とぶつかりそうになる暁臣くんを引っ張って、避けさせる。
 さすがに土曜の夜は人が多いなあ。

「では、茅乃さんが良く行かれる店などは」
「え。……暁臣くんが普段行くような店とは全然違うんだけど」

 居酒屋とか軽い感じのパスタ屋さんとかだし。
 またぶつかりそうになってる彼の腕を引っ張って軌道修正。

 車移動が多くて無秩序に歩く人々の間を行きなれてない暁臣くんは、夜の街が面白いのか、戸惑いつつもキョロキョロしている。

「構いませんよ、お代は勿論私が持ちますし」

 まあそれは期待してたけどさ。
 え〜〜と〜〜。

 
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