トリハナニイロ

□待ちぼうけ
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「待ち合わせをして、映画でも観に行きませんか」

 って言ったのは、そっちのくせに。

 ケーキセットも追加で頼んだミルクティーも、もうなくなってしまったじゃないの。


 約束の時間から、40分。
 携帯に連絡もない。
 掛けても、出ない。


 イライラするから時計さえ見れない。

 今までだって、待たされたことはあったわよ?

 あちらは過労死しないのが不思議なくらい労働基準法を無視したお仕事人間だもの。

 でも、連絡なしなんてこと、今までなかったのに。


 待ち合わせ、映画なんて、普通のデートみたいなこと。
 めんどくさいな、って口では言っても楽しみにしてたなんて、教えてやんないんだから。

 席を立つ前にもう一度だけコール。
 切り替わった留守電にため息をついて。

 ばか、と呟いて電源を落とした。


 いつも大人しく言うこと聞いてると思ったら大間違いなんだからね。
 しばらく無視してやるんだから。

 伝票を引ったくるようにテーブルの上から取って、立ち上がった。



 と、同時にいつもならありえない乱暴さで、店の扉を開け放ち飛び込んで来た彼と目が合う。

「茅乃さんっ、すみませ……」

 息を荒げて。
 髪は乱れて、仕立てのいいコートもスーツも何だか着崩れて。

 慌ただしげに、こちらへやって来る彼をポカンと眺めた。

「遅れてすみません……、帰ろうと?」

 まだ息が整わないまま、伝票を掴んだ私の腕を捕まえた彼の眉が下がる。
 ちょっと、男前が台無しよ?

「……だって、40分たつのに連絡ないし」

「すみません、渋滞に巻き込まれて」

「電話かけても出ないし」

「え、ああ……、車に忘れてきました……」

 私の言葉にコートやスーツのあちらこちらを探ったあと、肩を落とす。

「……走ってきたの?」

 乱れた髪の一房を手を伸ばして撫で付けてやる。されるまま、どことなくションボリした風に、頷いて。

 暁臣くんが走ってるところ想像できない。

 思わず吹き出すと、情けない表情で睨まれた。

 いい大人の男のひとが、スーツで全力疾走、何事かと思われるじゃない。

 そんなに焦ってたの?

 私を待たせてたから?

 クスリと笑みをこぼして、捕まれた腕を引いた。
 手を取り直して誘導し、元いた席に座らせて、彼が落ち着くのを待つ。

「……今度から、茅乃さんと街で待ち合わせをするときは電車を使うことにします」

 はあ、と深く息をついた彼が額に掛かった髪を払いのけるのを見ながら頬杖をついた。


 ――まあ、走ってきたことに免じて遅刻は許して差し上げましょうか。

 めずらしいものを見れたので、不機嫌は引っ込めることにした。


 了.
*********

TOMOにもらった茅乃ちんイラスト(真ん中にはさんであるやつね)を見てモエモエ書いたSSでございまする。

初☆逆コラボ!

メールのやりとりで、
遅れてきた暁臣に、こんな可愛く「もう☆」とか言っちゃったらお持ち帰りされちゃうよ、
とか言ってたんですが、書き始めたら茅乃がデレてしまって何だかほのぼのに。
本編で何故この甘さを出さないのか、この二人。


TOMO〜ありがとでしたヽ(`▽´)ノ


('08/12/02 ブログ小話)
 

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