月欠片。


□猫に鰹節。SS
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*ねこの名前*


「なあ、みゃーこちゃん。そろそろねこに名前付けたったら?」

ベッドに寝転んでねこと戯れている都胡ちゃんに俺は言った。

ん? と首を傾げてパジャマ姿の彼女は起き上がる。
…なんちゅうか、無防備過ぎて困るんやけど。
男や思われてへんのちゃうやろか。

「名前? ねこの?」
「ねこて仮、やん。俺が適当に付けただけで。都胡ちゃんが家族になったるんやったら、ちゃんと名前付けたって? ねこ、やのうて」

呼ばれたと思ったのかピョイと都胡ちゃんから離れたねこが、俺の側へやって来る。
くるると喉を鳴らして、膝に躯を擦り寄せてくる小さな猫を手に抱いて、微笑む。
自分がどんなゆるんだ顔をしてるかなんて、自覚してなかった。

クスクス笑って都胡ちゃんが言った。

「だって、ねこはもうねこでしょ? 他の名前を付けても、返事しないわよ。
ね〜、ねこー?」
「うなぁん」

膝立ちで屈み、俺の膝に丸くなったねこを撫でてくる都胡ちゃんの顔は、なんていうか、慈愛に満ちていて、やさしくて。

パジャマの衿の合わせから覗くふくらみに、つい目が行ってしまう俺の不埒さを咎められそうだ。

長いことしてへんしなー、考えてしまうくらいは許してほしい。
 
「…よ、芦原くん」
「あ? なんやて」

聞いてなかったの、と唇が尖る。

「じゃあ芦原くんが、ねこの本名考えてあげてよ、って言ったの。
沢 ねこ、て何だか物足りないしね」

間が抜けてない? と眉を寄せる彼女は真剣そのもの。

その可愛い眉間のシワに、くちづけたいと俺が思ってるなんて、気付きもしてない。

う〜ん、と悩んでから漢字でも付ける? と重ねて言って、ふと、イタズラっぽく笑う。

「“芦原 ねこ”でも良いよ?」

都胡ちゃんの提案に俺も笑ってから、そんなんやったら、と一人胸の中で呟く。


最初から。

俺の中でねこの名前はこうだった。



――音・胡――



それが俺のどんな乙女ちっくな感傷が含まれているかなんていうのは、秘密だけど。



あの雨の日に、
都胡ちゃんを呼んで、
俺を救ってくれた音<コエ>。



だから、お前は音胡――。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

とある夜の挿話。
だから、ねこはずっとこれからもねこです。
てゆーか月哉はムッツリです。

時期的に、4話と5話の間くらい。

('08.04/01 ブログ閑話休題)
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