月欠片。
□猫に鰹節。U
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「――同窓会……?」
「うん、ほら、牧野くん、覚えてる? 彼が幹事になって、近々しようって話になってるみたいなの」
うん、とボンヤリ応えて、心ここにあらずといった風になりながらも夕食の天麩羅を揚げる手はもとの動きを失わない。
私はとにかく月哉くんから何らかのリアクションがない限り、急かしたりしないことにした。
今日、高校時代の同級生から呼び出されて同窓会の企画があることを聞いた。
幹事の彼が私に尋ねたかったことは、音信不通のクラスメイトたちのことで、その中に芦原くん――今は桧野月哉になった、私の同居人かつ恋人の名前もあって。
大学を中退してから、月哉くんが以前の知り合いには一切連絡を取っていなかったことが窺える。
それは、高校時代の後半が、彼にとって暗闇に閉じ込められた期間だったことに由来するのだと思う。
一見、トラウマから解放されたようでいて、実はまだその傷は治りきっていない。
決着がついたように思えても、その傷は深いところで癒着していて時折ぐずりと痛むのだ。
自己を踏みにじられた痛みがどんなものなのか、本人にしか分からないことだと思う。
私に出来るのは、寄り添うことだけ。
一人で耐えようとする彼を、抱き締めることだけ。
それしか出来ない自分をもどかしく感じたりするときもあるけれど、傍にいてくれるだけでいい、そう、彼が言うから。
同窓会に出て、『芦原月哉』だったころの彼を知るひとばかりに囲まれて、落ち着いていたかに見える心がどういう反応をもたらすのか分からない。
それが、不安なんだ。
私たちはまだ、幸せを手探りしながら造り上げている最中。
まだデコボコで、穴だらけだったりするそれが、いつか完璧な球になると信じて。
ゆっくりと、歩いているところなんだ。
「――みゃーこちゃん、牧野の連絡先って分かる?」
夕食の後片付けをしている月哉くんがポツリと言った。
分かるよ、と私は携帯のナンバーを呼び出す。
少し躊躇ったあと、月哉くんは深呼吸してボタンを押した。
「ああ、――マッキー? 俺。イインチョやなくて残念やったな〜。……うん、月哉です〜」
おどけた風を装いながら、背中に緊張を張り付け、電話の向こうの牧野くんと話し出す。
彼と月哉くん、高校のときはどんな仲だったっけ。
月哉くんは、人好きのする性格とその容姿とで、友達も多かったけれど、その中で、特に、っていう友人はいなかったような気がする。
今勤めているバイト先の人とは、最近飲みに行ったり時々電話で馬鹿話したりする様子も見られるけど。
少しだけ。
少しだけ、月哉くんの傷の原因は、私と出逢ったことによって引き起こされたものだっていう、暗い考えがあったりすることを否定できない。
もし、とか、あの時そうじゃなければ、とか、考えても仕方のないことを、考えたりもする。
みゃーこちゃんに逢えて良かった、と彼が切なく微笑むたびに、
でも、
と囁く私がいる。