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Scene 1.
いつもわたしはそこを通る時、足を止めてしまう。
三年の美術部員が描いた、わたしにはよくわからない偉いとか凄い賞を取ったとかいう、その絵の前で。
賞を取った凄さなんてわからないけど、
ただ、
わたしはこの絵が好き。
孤独で、見ていると胸が締め付けられそうな朱い朱い夕陽を描いた、風景画。
他者を拒絶しているかのような烈しさを感じつつも、どこか寂しさと温かさを宿した、色使いに、どうしようもなく惹かれる。
わたしの名前は、早瀬夕翡。
はやせ・ゆうひ。
だからって訳じゃないけど、その絵を見た瞬間、わたしは恋に落ちていたんだと思う。
繊細で、
大胆な、
相反する筆致で描かれたその夕陽の絵、
それを描いたひとに。
今日も絵の前で足を止めて、いつも通り首を傾げる。
やっぱり何て読むんだろ、この名前。
苗字はわかる。
下の名前がわからない。
ショウ・?
ヨイ・?
そうして頭を悩ませていると、フッと視界が陰って、背の高い男子生徒が、わたしの後ろに立っていたことに気付く。
そこにいたのは、甘い顔立ちの綺麗な男のひとだった。
距離の近さにビックリして思わず飛び退ると、
ゴン。
……ガラスケースに頭をぶつけてしまう。
くぅう、
涙目になってぶつけた後頭部を手で押さえていると、頭の上の方でくつくつ笑う声。
「ごめんね。驚かせたみたいだね」
と、ちっとも悪く思っていないような、楽しそうな笑顔で彼は言う。
意地悪なひとだ……。
間違いなくいじめっ子なひとだ……!
「難しい顔して見てたけど、そんな悩むような絵かな?」
「…違います、わたしが悩んでたのは、」
絵の下にある、ネームプレートを指す。
「このひとの下の名前、何て読むのかわからなくて」
彼は一瞬虚を突かれたような顔をして、次の瞬間声をあげて笑いだした。
「ちょ、そんな笑うことですかっ!?」
「ッハハ、あは、そうきたか、変だと思った…くく、」
ケホケホ、笑いすぎの咳までして、ようやく笑い止んだ彼は、
むうぅ、とフクれている私を可笑しそうに眺めて、
「ショウ・キ。
コガ、ショウキって読むんだよ」
トン、指先でプレートを叩く。
――ショウキ。
「古賀、宵暉…さん」
謎が解けてスッキリしたわたしは、教えてくれたそのひとにニッコリ笑った。