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□COLOR/スペシャルBirthday
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 宵暉先輩と過ごす、何回目かのバースディ。

 一番最初は森のアトリエで。
 二回目は宵暉先輩のお家で。
 その時々で場所はいろいろだけれど、彼と一緒に過ごすというのは変りない。

 今回は、宵暉先輩がお仕事の話をするとき便利だからってよく利用する古賀のホテル。

 何にも用意しなくていいから、って身ひとつでさらわれた。



「…森のアトリエでも良かったんですよ?」

 長期休みのたびに、一週間は滞在する、もう隅々まで慣れた場所のことを思い浮かべながら言うと、ダメ、と笑顔で却下される。

「あそこに行くと夕翡がじっとしてないからね。君の誕生日なのに僕の世話をやいてどうするの」

 そんなの構わないのに。
 先輩が絵を描いてる空間にいるだけで幸せなのにな。

 ソファーに座った宵暉先輩の膝に乗せられて、おろした髪を弄られる。つん、つん、と時々引っ張られるのと、先輩の手の動きで何やら編み込みをされている様子だとわかる。

 男の人なのに器用だなぁ、宵暉先輩。

「今日と明日は夕翡はお姫様だからね」

 何もしちゃダメだよ、なんて、もう一回言って。編んだ髪に細いリボンを結んだ先輩は上機嫌だった。

 このあとテラス席でアフタヌーンティーを頂きにいこうか、と笑ってこめかみにキスが落とされる。

 サラリとした生地で作られた綺麗なワンピースも、先輩が用意したもので。まるで小さな子がお人形遊びを楽しむように、宵暉先輩はわたしにアクセサリーを付けたり外したり、その具合を確かめられて、だけど動いちゃいけなくて。

 なんだか落ち着かないのです……。


「さ、でーきた。さあさあ可愛い夕翡を見せびらかしにいくとするか」

 うう、可愛いのは服と宵暉先輩の髪結いの腕前のおかげなの〜。


 リップとハンカチを入れただけの小さなバッグも先輩が持って、「ではお嬢様、行きましょうか」と執事さんみたいに恭しい態度で手を差し伸べ、顔を覗き込んでくる。

 かあ、とわたしが頬を赤くするのに笑って。

「もう、先輩ったら面白がってるの!」
「当然でしょ、2日夕翡をひとりじめできるんだから」

 いっつもひとりじめしてるのに、何が違うんだろ。

 宵暉先輩の柔らかい微笑みがなんとなく恥ずかしくって、ぷんとすねたフリで先に扉へ向かう。
 クスクス笑いながら、後を追ってくる先輩の気配をしっかり感じながら。


――だから、気付かなかったの。

 そこに人が居たなんて。


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