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□COLOR/ハッピーエンドの条件
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 窓の外は嫌になるくらいの晴天。

 あの、運をチカラワザで引き寄せているような女性にお似合いの。


 どうにもウザったいカラーシャツの袷をいじっていると、「お召しになって30分もたたないうちに崩さないで下さいませ!」とスタッフの小言が降ってきたので渋い顔をして指を離した。


 ああ。

 憂鬱だ。

 でも夕翡があんなに楽しみにしているんだ、しょうがない。

 顔を見せたらなるべく早く帰ろう、独り占めしよう。



「宵暉さま、お嬢さまのお支度出来ましたよ!」

 上機嫌のスタッフが、衝立の向こうでまごまごしているらしい彼女の手を引く。

 ふわん、とピンク色の花のブーケのような恋人が現れて。窓際にいる僕を見て、はにかんだ笑みを見せた。

「宵暉せんぱい、変じゃないですか?」

「めちゃくちゃ可愛い」

 不機嫌なんてよそへやって、夕翡に微笑んで歩み寄る。

 夕翡を着飾らせるにあたって、僕が直接注文したドレスは、デザイナーの従兄によって想像以上に仕立て上げられていた。

 淡く紫がかったピンク色の生地で作られた、型自体はシンプルなプリンセスラインのワンピース。

 だが、そこは流石の潔センセイ。


 胸元から胴にかけ施されたシャーリングが細かく上体を包み、Aラインに落ちたスカート部分は花模様のオーガンジーが重ねられて華やかに。白い花を模して造られたコサージュが右胸を飾って。
 かぎ針編みのシルクニット素材のドレープカーディガンを羽織ればお姫さまの出来上がり。

 ホントにブーケみたいだ。

 髪飾りまでお揃いとは、恐れ入りました潔兄上。
 ぼったくっただけある。

 この夕翡を他の人間に見せびらかしたいけど見せびらかしたくない。

 矛盾する自分の心に苦笑する。

 くるくる巻かれて結い上げられている髪に触れて、頬を赤くしている僕の愛しい娘にささやいた。

「どうしよう夕翡? あのひとより今日の夕翡の方が絶対綺麗だよ」
「もう、宵暉せんぱいっ。またそんなこと言ってっ」

 本日の主役に対しどうでもいいと思っている俺の姿勢を読み取ったのか、“咲紀さん”ヒイキの夕翡はぷっくり頬をふくれさせた。

 わかってないな。あのひとがどんなに着飾ろうと、僕にとっては夕翡が一番可愛いのには代わりない。

 桃色の頬に口づけて、スッと腰に手を回す。

「さあ、行こうか。挨拶したいんでしょ?」
「はいっ。……こんなものだけど、喜んでもらえるでしょうか…」

 弾む返事をしたと思ったら、シュンと肩を落として、夕翡がラッピングバッグをきゅっと抱き抱える。

 お気に入りのお店でブレンドしてもらったという、ブライダル・ティーのセット。
 値段にすればそりゃ大したことはないだろうけど、夕翡が(腹立たしいことに)一生懸命あのひとのことを考えて、選んだんだ。喜ばないはずがないと思う。

「それをいうなら僕の方だよ。気が向いて描いたけど、こんなのもらっても仕方なくない?」

 一応プレゼント用にと家の者に言って包んでもらった50センチ四方のお荷物を担いだ。

「仕方なくないですよ! 絶対ゼッタイ喜ばれますよっ! すっごくすっごく素敵でしたもんっっ!! 幸せですっ!!!」

 興奮しすぎて意味不明になっている夕翡を宥めて、お互いに空いているほうの手を繋いだ。

 ふわりと微笑んで見上げてくる恋人にもう一度軽くくちづけて。


 今日一番幸せなひとと、今の自分どちらが幸せだろうかと一瞬考えたあと。


“そんなの比べるもんじゃありません、どっちもに決まってるじゃないですか!”

 なんて、バイタリティー溢れる空耳が聞こえてきて、うんざりしつつ、僕は同意の笑みを返したのだった。



2009/08/09.write
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