アオイトリ
□L'Oiseau blue. A×B Side暁臣
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「暁臣くん、はい、あ〜ん?」
上機嫌に悪戯っぽい笑みを浮かべ、茅乃さんがフォークに掬った一口分のスイーツを差し出してくる。
それが甘味でなければ、諸手を上げて歓迎したい恋人同士のようなやり取り。
目立つことが嫌いな茅乃さんが開き直って更に目立つこんなことをするのには理由がある。
要は、怒っているのだ。
せっかくの休み、仕事に協力して下さいなんて言って、騙してこのホテルに連れてきたことを。
それについては少し反省もしていたので、嬉しいのだか苦しいのだか自分でも分からなくなってきた罰を大人しく受ける。
ぱくりと、自分には甘いだけとしか感じられないそれを口にし、すぐにコーヒーを流し込んだ。
それでも口内に拡がる歯が溶けそうな甘さに、苦悩する。
甘いものは、苦手だ。
ニヤニヤとそんな私を満足そうに眺めたあと、茅乃さんは今度は自分自身がスイーツを味わうため、フォークをツヤツヤ輝く生クリームへと突き刺した。
嬉々として目の前にズラリと並べられたケーキたちを、ゆっくりしっかり幸せそうに攻略していく彼女に、毎度のことながらその細い身体の中はどうなっているのだろうと思う。
このあとディナーもあるのに。
一個ぶんのケーキ量を一口ずつ食べた自分すら少し苦しくなっていたりするのだが。
以前もうちのホテルでケーキ制覇をしていたな。
大丈夫なんですか、と一応訊ねると、ちっちゃい頃はブラックホール茅乃と呼ばれていました、とケロリ告白。
そういう茅乃さんも好きですが。
どうも雰囲気作りに失敗して目的が果たせない。
わざわざ、古賀には関係のないホテルに来たというのに。
嘘をついた報いだろうか。
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