アオイトリ

□アオイトリU〜妬心〜
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 はふぅう。

「楠木先生ったら悩ましいため息。何か気にかかる事でも?」

 いえいえ、単に身体がダルいだけです。特に腰。
 などと言うわけにもいかず、私は田崎教諭の言葉に曖昧に笑い返した。

 ったく、翌日にまで残るくらいしつこくするのはやめて欲しいわ。
 あの殿下め。

 ダルい身体を叱咤し、私は授業へ向かう。
 今日の担当授業はこれで終わりだし、速攻で家帰って寝てやるんだ。


「茅乃ちゃん、その服可愛いね。おにゅう?」
「まあね〜」

 目聡い女生徒の言葉ににっこり笑う。

 今日私が着ているのは黒地に紫とピンクの幾何学模様が入った膝下の女らしいカシュクールドレス。
 日頃パンツスタイルが多い自分では選ばないデザインだが、スカートが嫌いなわけではないので気に入ってる。

 ……例のごとく用意されてた物だけど。

 もちろんブランド物だ。
 値段は考えたくない。
 あの人、私にいくら使ってるんだろ?

 既に私のワードローブ内は彼にプレゼント(強要)された服に取って代わられそうな勢い。

 いらない、と言いたいところなのだけれど、着る服がない状況に追い込まれている上で渡され、あの笑顔で、

「茅乃さんに似合うと思ったんです」

 と言われてしまうと私の負けは決まったも同然。

 しかしワンピース系が多いのは趣味なんだろうか。
 ……脱がせやすいからとかいう理由ならオヤジと呼んでやる。




「茅乃」

 5限の授業を終えて、廊下を歩いていると、元婚約者である藤岡教諭に呼び止められた。

「今いいか?」

「ん、どうしたの?」

 人気のないうちにと、呼ばれるまま理科室に入る。

 藤岡くんとは別れたけれど、同期で友人なのには変わりない。

 どちらかと言うと、恋人期間より友人としての関係の方が長いので、気負いなく話せる相手。

 なんて、別れ話をした後でちゃんと会話するの、今日が初めてなんだけど。

 
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