アオイトリ

□if アオイトリ〜アオイハル・Oz〜
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「入部希望者かな?」

 まだ誰も来てない演劇部の部室に、見慣れない少年が居るのを見て私は声をかけた。

 はっ、と振り返った整った顔立ちに見覚えがあって脳内検索を始める。

 そうそう、一年生の子達が騒いでた。

 先輩、同じクラスに王子さまがいるんですよぅ、て。

 理事の息子で、
 美少年で、
 成績優秀、
 スポーツ万能、
 性格も良くて、
 なんて、絵に描いたような王子さまが。

 え〜と、隠し撮り見せてもらった彼だ。

 確か名前は、

「古賀暁臣くん。……だよね? うちに何か用?」

 私が名前を呼ぶと驚いた様に目を見張って。

「俺の名前をご存知なんですか?」

 おっと、いい声だなぁ。
 入部してくれないかしら。

「まぁね、人気者だもん、君」

 にっこり笑って言うのに複雑そうに目を反らす。
 おや。あまり好きな話題ではない?

「俺も……貴女を知っていますよ、楠木先輩」

「あら?」

 知られている心当たりがなくて頬に手を当て首を傾げた私に、ほのかに笑って。

 うぅん、やたら雰囲気のある子だなあ。
 役者、やる気はないかしら。

「三年の楠木茅乃さん。
 新入生歓迎会の時、グリンダ役をされていましたよね」

 ちょうど見ていたらしい、スナップ写真を示して微笑む。

「あらら。よくわかったわね、特殊メイク張りに作ってたのに」

 ちなみに演目はオズの魔法使い。
 私は善い魔女グリンダを演じた。

 茶金のクルクルふわふわウィッグに聖女メイク、白魔女ドレスで自分で言うのも何だけど、かなりいい出来だった。

 しかし、普段の私は黒髪ストレートを色気なく一つにくくったメガネの冴えない女史タイプだ。

 まあ、だから化けるのが楽しいんだけど。


「わかりますよ、一目惚れでしたから」

「ゴメンね〜、正体こんなで」

 後で皆に詐欺だ詐欺だと言われたっけ。役者冥利につきる。

「……スルーですか」

 ん?

 首を傾げた私に、いいえ、と苦笑した少年はやっぱり綺麗で。

 あらためて勧誘してみるが、目立つのは嫌いなので申し訳ありません、と辞退の言葉。

 残念だけど、仕方ないか。
 無理に引き入れても楽しくないもんね。



 以来、校舎内で会うと挨拶をする仲。

 
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