アオイトリ
□アオイトリ[〜さざなみ〜
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その和風姫君の襲撃を受けたのは、珍しく予定のない週末だった。
理事長は、春に持ち込まれたホテルに関しての事業が大詰めを迎えて海外出張中。
部活もなし。
特に片付けなきゃならない懸案もなし。
日頃あれだけ暇をくれ! と思っていたくせに、そうなったらそうなったで何もすることがないってどうなのかしら、私。
昼過ぎまで惰眠を貪って、腹の怪獣が空腹に暴れだしてようやく起き出して。
手始めに四つ切りトーストを二枚、カフェボウルにレトルトのスープという適当ブランチで宥めてから、買い出しに行かなきゃなあ、と思ったのだった。
小春日和の空の下、散策気分で最寄りのスーパーまで。
こういうとき、車があったら助かるんだけどさ。なにしろこっちは免許はあっても車は無し。駐車場代が高いのよ。
うん、最近運動不足だし、まあいいか。
ダラダラとそんなことを考えながら、アパートを出て――歩き出した時だった。
失礼、と鈴の鳴るような可愛らしい声に呼び止められたのは。
振り返ると、住宅街には似つかわしくない着物姿のお嬢様。
イヤミでも何でもなくて、雰囲気およびお召しになっているお着物の上質さからして、こりゃ姫だな、と思ったのよ。
「……楠木、茅乃さんでいらっしゃいますね? わたくし、丹羽千鶴と申します。少々、お時間頂いて宜しいでしょうか」
固い表情で、緊張した様子のお嬢様に予感を覚えたのは、何故か。
少し視線をずらすと、お嬢様のお車らしき高級車。そして私にいつも付いてくださっている、古賀の護衛の方が気配を知らせてくれたので、私はニコリと微笑んで、すぐ近くにある喫茶店に彼女を誘ったのだった。