アオイトリ
□アオイトリ\〜波紋〜
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「この馬鹿」
そんなことは本人が一番よくわかっているだろうが、言わずにはいられなかった。
凹みに凹みまくっているところへの、更なる私の追い討ちに、藤岡くんはベシャリと机に伏す。
まだまだ。
「春まで我慢すりゃいいものを、なんだって校内でイチャイチャしちゃったかな。しかも面倒な類いに発見されるオマケ付きとか」
「誰もいないと思ったんだ……」
「油断大敵っつーのよ」
ばーか、容赦なくトドメを刺した。
それは、連休中のこと。
三年生を担当している藤岡くんは、自主勉強で学校にやって来る生徒たちのために、準備室に詰めていた。
下校時刻になり、生徒は帰り、藤岡くん自身も帰る支度をしていたところへ、高原さんが来た。藤岡くんがガンとして口を割らないので理由はわからないんだけど、相談事があったらしい。
何事か話し合って、高原さんを慰めているうちに、うんまあアレだ、恋人同士ですからね? そういう雰囲気になったと。
さすがにいかがわしいコトはしなかったと言うけれど、キスはしてた。で、まんまとその現場を残っていた生徒に見られて。
その子が分別とか、ある程度機転のきく子だったなら、騒ぎにはならず、処理出来ただろう。
だけど運悪く――というか、当然というか、目撃者は、以前藤岡くんに告白したことがある生徒だったのだ。理系ではない彼女が、何故その時間に理科準備室辺りを通りかかったのか、ということは今は置いといて。
そんな事情のある目撃者が次に取った行動は、なんと。
その現場を写メって、友だちに回す――ではなく、報道部へ駆け込んだのだ。また、報道部にいたのがゴシップ担当ときた。
あとは、周知の通り。
連休明けの今朝、写メ画像つき学園Webニュースが購読生徒に配信され、学校に来ると壁新聞がデカデカ掲示板に貼り付けられて、大騒ぎになったと。
そろそろ先生方も集まる頃。理事連にも、知らせがいっている。
緊急会議が始まるまで、当事者をこうして確保してる訳だけど、見張りが私というとこがなんとも。
気を利かせてくれたんだか、藤岡くんに対する嫌みなんだか。
「とりあえず、高原さんは登校前に皆川先生に保護してもらって、今は保健室よ。覚悟はできた?」
うだうだしていた藤岡くんは、頷いて、気合い入れなのかベシリと自分の頬を両手で叩いた。
――理事長は、まだ日本には戻っていないので、代理として前理事長が来られるそう。
……暁臣くんのお父様が、余計なことは仰られないことを願いたい。
今は、別のことを考える余裕が、私にもない。
こんな形で暴かれた秘密が、どう影響するのか。
秘密が秘密でなくなった今、それにまつわる私と彼の関係が、どうなるのかなんて。
考える覚悟がないのは、私のほうだった――。