アオイトリ

□アオイトリ]〜青い鳥〜
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 今から思えば、全てが後手に回っていた段階で、おかしいことに気づいてもよかった。
 だがその時の私は、休む間もないスケジュールに追われて、いつもの情報確認を怠っていたのだ――。



「暁臣さま、帝樹さまから至急とご伝言が」

 知らせを受け取ったのは、来春オープン予定の、ウィンスレット城ホテルに滞在していたときだった。
 時刻は深夜。秘書も私もまだ就寝には至らず、城の一画に作らせた簡易オフィスで仕事を片付けていた。

 基本的に、自分が指揮を取らない仕事に関してはこちらに任せきりの父が連絡を寄越す、それ自体に違和感を感じる。
 至急、とわざわざ言い置いているのは、その通り連絡しろということ。
 一旦手を置いて、父の直通にコールする。すぐに繋がり、開口一番、端的に告げられた。

「暁臣、厄介事だ。藤岡教諭がヘマをやらかした」

 抹殺したい男の名前に、瞬時に状況を把握する。
 あの男が犯すヘマなど決まっている。

「……バレましたか」
「ご丁寧に、回覧板回してくれちゃったぜぇ、ガキ共」

 回覧板、ということは学園のwebニュース。報道部経由か。ちらりと抹殺したい男その二の存在が頭を過った。

「どうする、お前戻って来れねぇだろ。10時から臨時会議だが」
「ジェットを飛ばしても無理ですね。代理を頼めますか」

 自ら連絡を入れてきたことから、最初からそのつもりだったのだろう、あっさり了解の言葉が返ってくる。
 父のスケジュールがどうなっていたか、記憶を掘り起こし、会食程度ならキャンセルしても大丈夫かと判断し、余計なことは言わなかった。
 父も二年前までは学園に関わっていたのだ。どうせなら自分が口を出したいのだろう。

「藤岡教諭関係の書類は甲斐田が管理していますので。今の段階で、どの様な処分か目されていますか?」
「いや? 今データを送らせたが、言い訳しようと思えば出来る程度だ。――まあ、しないだろうが」
「そうですね、クソ真面目ですから」

 忌々しいことに。内心で付け加えていると、向こう側の父が笑い声を立てる。

「やっぱ元恋敵だ思うと穏やかじゃないか」

 無視して続けた。

「出来れば大事にしたくはありません。時期が時期ですし、解雇、退学ということになれば生徒の動揺を誘うでしょう。幸いというか――彼が弁明するかわかりませんが、女生徒の親は関係を了承しています。それで情状酌量を狙ってください」
「親が? ――ああ、高原……琴巫女の家か」

 情報を確認しなおした父が不快を表す。一般とはまた違う意味で、上流世界の裏で有名な家名。それだけで大体を把握したらしい。書類を見れば詳細はわかるので、それ以上は言わなかった。

 藤岡の事情がどうであれ、茅乃さんにした仕打ちは許せるものではない。
 ――彼女が自分を守る為に、私に身を捧げたことも知らず、のうのうと友人面をしていたことも、こんなバレ方をしたことも――

 だがそれでも。やはりあのひとは彼を庇うのだろう。
 それが一番憎らしい。

「――父さん、情報処理部に寄る時間はありますか? 部下に言付けますので、学園から会議の状況を通信してください」

 怪訝な顔をする父に、部下が説明しますから、と一旦通話を切った。
 次にこの時間なら出勤しているだろう部下に連絡を入れ、指示しながら、これからのことを考えた。

 秘密が秘密でなくなった。
 茅乃さんを縛っていたものが、明るみに出てしまった。

 いま、どういう気持ちでいるのか、聞きたくて、聞きたくない――。


 
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