エース×

□雪の夜に君と抱き合う
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雪明かり、が綺麗だ。

『雪明かり』という名前は、さっき覚えたばかりだ。


真っ暗な部屋に白く浮かび上がる窓枠。その向こうには薄明かるい雪景色。

灯があるわけではないのに外は闇に包まれず、この宿の庭に生える木々や向こうの通り、家までが雪を厚く纏い、うっすらと明るく見えている。


『…降るなァ』


窓枠に手をかけ、ガラスに顔を近づけて空を見上げる。

この雪はまだ止みそうにない。
後から後から、白い綿のような雪が音もなく降り積もる。



こんな雪が降りしきる日は、外の音はみんな雪に吸い込まれるそうで。

外は無音になるらしい。

なるほど辺りは本当に静かで、しんとしていた。



『…』




…どこまでも無音。



まるで、この部屋の二人の他に生きているものはなくなってしまったような。

静かで静かで、それが何だか別世界にいるようで、不思議と心が休まる。



冬島は初めてではなかったが、今までこんな事を気にした事はなかったので新鮮だ。

おそらく今までの俺には、自分の事以外を気にかける余裕がなかったのだろう。

雪の静寂に心地好さを感じてじっとしている自分を不思議にすら思うが、こんな心境の変化も彼からもらったものだと思えば嬉しくなった。





『なに見てる』



ふと静寂を破る声。


『あぁサンジ。…雪明かり、見てたよ』


振り向くと、いつの間に起きたのか。

激しい会瀬に気を失うように眠ってしまっていた恋人が、ベッドから起き上がりこちらを優しく見ていた。


雪明かりの名前も雪の事も、彼が教えてくれたものだ。

一人なら圧迫感を感じるかも知れないこの雪の静けさも、彼とだからこそ心地好いのだと、ふと口元が弛んだ。



『不思議だな雪って。夜なのに真っ暗にならねェなんて』

『月の光を雪が跳ね返すんだとさ』

『へェ…』

『寒ィだろ、こっち来いよ』


ああと応えてベッドに戻り、サンジの肩に頬を寄せる。
サンジはつめてェ、と文句を言って肩をすくめるが、けして払いのけたりはしない事を、俺は知ってる。


『…ふふ』

『、なんだよエース』

『ううん、何でもねェよ』


そのまま抱き込みベッドへ倒れると、サンジにそっと口づけた。


何でもねェよ。

ただ雪明かりに浮かぶサンジの肌が、今見てた雪みてェに白くて、綺麗だなァって、思っただけ。








『…っ』


敏感なのに我慢する癖のあるサンジが、また吐息を隠そうと息を詰めた。

でもこの部屋には他に音もなく、俺にはすぐに分かってしまう。

濡れた音と吐息、シーツの衣擦れの音。ここには俺達の音しかない。


『感じてるくせに』

『…だっ、て…』

『…ここまで音がねェと小せェ吐息の一つもよく聴こえる…色っぽいな』

『っ…雪国なら、珍しくもな、い…ぁ』

『、詳しいんだな』

『生まれは、ノースだから』

『そっか…っ』

『ァ…っ!』



無音の中、二人で戯れる空間は、まるで時間までも止まったように感じる。



…このまま本当に時が止まったらいいと、甘えた事を思わずにはいられない。


あまりにも、二人の時間が穏やかに過ぎて行くので。

甘く甘く、流れて行くので。


このいつまでも降り続く雪に白く覆われて、誰にも知られない二人だけの世界に隠れてしまいたい、そんな気持ちになってしまうのは、この静けさのせいなのか。



明日にはまた、互いの旅へ戻らなければならない。

俺たちにはそれぞれ、成さなきゃならねェ事が待っているってのも承知してるし、それを止める気もない。




でも今は。
…今だけは。

音のない夜、寒い部屋にベッドがひとつ。
雪明かりが灯る窓と、サンジがいればもう、それで。



『…サンジ』

『っ、…エース…おれ、もう、…!』


雪明かりにうっすら照らされ、限界を訴える顔は泣きそうにも見えて、宥めるように深く口づけて抱き寄せる。


その雪みたいな白い肌は反して熱く、溶けてしまいそうで。

確かに今しっかりとこの腕に抱いているのに、この穏やかな夜もサンジも、雪と共に溶けて消えてしまいそうで、無性に切なくなった。



『まだ、だ』

『エー、ス?…ん、む…っ!』


思わずサンジを更に強く引き寄せ、強引に唇を塞ぐ。



『っ、もう少しだけ、このまま…、』

『ん、あァ…ぁぁ…っ!!』


二人だけの無音の世界。この夜も、じき明ける。

だから、あと少しだけ。


焦りとも独占欲とも寂しさともつかない感情が溢れて、抑えが利かない。


『…もう少し、だけ』



快感と切なさがない交ぜになってサンジを強く強く抱き締めると、何か伝わったのか、今度はサンジが宥めるように俺の頬に手を添え、優しく深く、口づけてくれた。




End




→あとがき☆
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