ゾロ×
□センセイ。
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海と山に囲まれた小さな北の町
海を見下ろすような小高い丘に建つ、小さな学校
そこで俺は
一人の先生に会ったんだ
当時は思いもしなかった
彼と、今後の人生を
歩いていく事になるなんて
【センセイ。】
〜出会い〜
『3年生を受け持ちます、ロロノア・ゾロです』
初めてロロノア先生を見たのは、中学3年生になったばかりの始業式だった。
生徒達の前で赴任の挨拶をする先生。
『担当する教科は、理科です』
…若いな…いくつだ。
俺は生徒の列に混じって、新しく担任になるという先生の顔をまじまじと観察した。
…怖ェ顔…怒ってんのか…?
第一印象はそんな感じで、ハッキリ言って悪かった。
全く、どこのチンピラかと思うような風貌だ。
背はスラリと高く。
スーツの上からも分かるしっかりとした体つき。
緑の髪と、片耳にはピアス。
何より、刺さるようなその鋭い眼差し。
『大学を卒業して、この学校が初めてとなります』
丁寧な言葉づかいに、まるで釣り合っちゃいねェ。
『なぁサンジ、今度の先生…なんかすげぇコエーな』
クラスメイトのウソップが俺の脇腹を小さく小突いた。
『あぁ…』
『クク、あの顔で理科の先生かよ。どうみても体育だよなァー…でもあんなに若い先生って今までいなかったから、何か面白そうだよな』
『……あぁ…』
まくし立てるように語りかけるウソップの話は、何故だか上の空で。
俺はずっと、挨拶を終えステージ脇へ下がって行く怖ェ顔の先生を、目で追っていた。
『ロロノア・ゾロ…先生、か…』
怖い風貌に丁寧な口調。
そんなちぐはぐな印象と。
先生より近所の兄ちゃんと言った方がぴったりくるような若さが、俺の中に濃く残った。
―後に彼は笑う。
あの時は初めて『先生』として皆の前に出たんで、めちゃくちゃ緊張して顔が固まっちまったんだ、…と。
*…*…*…*…*
『ちょっと、そこの』
『…俺っすか』
始業式が終わって早々、俺は突然呼び止められた。
『そう、お前…ちょっとこのプリント、教室に運んでくれないか…?』
…ゾロ先生だ。
『ぁ…ハイ』
なんで俺…?
クソ、ついてねェな…。
この田舎の小さな学校は、学年が1クラスしかない。
クラス替えもないから、クラスメイトは小さい頃からずっと変わらない。
だから俺は初めて会ったばかりの人とは、話すのが苦手だった。
『これな。頼む』
『…ハイ』
さっきの挨拶とは少し違う、少し笑った顔で俺を見るゾロ先生。
眼差しの鋭さは薄れ、若いながらも落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
…さっきと全然違うじゃねェか。
笑うとあんまり怖くねェな…。
そんな事を一瞬思いながら、なぜかドギマギしながらプリントの束を受け取った。
『…お前、名前は?』
『ぇ…あ、平田…平田サンジ、です』
『サンジか…よし覚えた。
よろしくな、サンジ』
『ッ!…ハイ…』
笑顔でいきなり名前を呼ばれて、ドギマギはバクバクに変わっていた。
なんだよ、
先生が名前で呼ぶかよ…
突然親しげに呼ばれたのに驚いた俺は、結局教室に着くまでの間、胸のバクバクを止められなかった。
…よく分からねェが、この時もう。
何かの感情が芽ばえ始めていたのかもしれねェな。
あぁ、後で聞いた事だが、ゾロ先生が『先生』になって、初めて声を掛けた生徒は俺、名前を覚えたのも俺だったそうだ。
…俺の密かな喜びだったりする。
*…*…*…*…*