短篇

□優しい歌
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ラララ

ラララ

僕らはうたう

それぞれ違う空の下で









《優しい歌》





「ね、ベジータ。歌ってよ」


それは単なる気紛れだった。


「断る」


「ぇえ!?速答ですか」


取りつく島のないベジータとの話題が欲しかった。


「なぜ、歌わねばならん!貴様一人で歌えばいいだろう」


ふん、と鼻を鳴らしてそっぽをむく。

そんな事するから沈黙が続くんだよね。

仕方ない。


「…ふぅ〜ん。音痴だから歌えないんだ」


わざと、からかう様に言ってみる。

彼ならこうすれば乗ってくるはずだから。


「ふざけるな!誰が音痴だっ」


ほら、ね。


「じゃあ歌って?何でもいいから」


彼の領域の中に入っていくように一歩、踏み出す。

顔が赤いのは怒っているせいかな?


「…チッ。笑ったらぶっ殺すからな」


そう言って口を開いたベシータの歌声。

普段の刺々しい言葉とは違う、柔らかな言葉達。

一節、歌い上げたベジータはもう一度舌打ちをして、ごろりと寝転がった。


「ふわぁ〜。意外!ね、今の歌は何?」


優しい旋律に思わず感嘆の声を上げた。

上手なのもあるけれど、歌から感じた心が暖かかった。


「子守歌だ、惑星ベジータの。母様がよく歌っていた」


“母様”と言う聞き慣れない言葉に興味を引かれた。

それと同時にベジータも人の子なのだと納得した。

僅かだったのかもしれないけれど彼にも子供として親に甘えていた時代があったのだと。

ふと感じた親近感に何だか嬉しくなる。


「これだけは、忘れなかった。倒した敵も、征服した星も、母様の顔でさえ忘れたのに」


その言葉は、どこか寂しげだった。

無気力感に似た虚無。

見えない表情が歯痒い。


「もう一回、歌って。お母さんを想いながら」


何かを考えていたわけではなかった。

ただ、歌う事でベシータの中のお母さんの輪郭がはっきりすれば、なんて。

意外にも彼は拒否しなかった。

再び歌いだしたベジータの子守歌に合わせてそえるようにハミング。

二つの歌声が重なって、響く。


「うん、素敵な歌」


最後まで一緒に歌って思った、素直な感想。

歌っているこっちが眠たくなってしまいそうなほど、穏やかな気持ちになる。


「貴様、何のつもりだ」


眉間に皺を寄せてるベジータ。


「ごめん…邪魔だった?」


「……別に」


そう言ってまた顔を背ける。

赤い耳をして、きっと伏せられた顔も同じく赤いのだろう。

こうやって、彼の新しい顔を一つ知る度に幸せな気持ちになる。


「その…、悪くなかった」


「うん。今度は地球の子守歌を教えてあげるね」


たとえ違う星でも。


「ふん、勝手にしろ」


その心は同じだと思うから。


「うん、勝手にする」










言葉に、声に、歌にする事で見えてくる世界もある。









「あ、でもお好み焼きを作る時は歌わなくていいよ?」


「……貴様ぁ!」





Fin.


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