「G」 chronicle

□魔神
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拝啓

 初夏の風が木々を爽やかに吹き抜けるこの頃ですが、如何お過ごしでしょうか。
 真っ先に御報告と御礼をしたいと思っていたのですが、御手紙を書く時間を作る為に一月近く時間がかかってしまいました。
 日本語の手紙が、しかも私から届いて驚かれているかもしれませんね。種を明かしてしまうと、日本人の留学生の方に代筆をお願いしています。
 あれから早いもので十五年の歳月が流れました。平壌の景色も近年は、日々変化している様に思います。
 多くの専門家の方々が懸念されていた様ですが、少なくとも私の様な一般人の生活では経済的な打撃は深刻になっていません。しかし、貴方の国からも多くの支援を受けていると聞きますので、少なからずの影響は出ていたのでしょう。
 影響といえば、彼女は引退を表明しました。元々、仮としての立場からずるずると続けてしまったのでもう十分だと、先日お会いした際に仰っていました。私個人としては、彼女にはこのまま選挙に出て、初代大統領となって頂きたいと思っていただけに、残念です。
 あの方の事も残念に思います。お会いした際に彼女が仰っていましたが、この十五年間こそがあの方にとっての罪滅ぼしであったのかもしれません。噂によると、鏡を嫌っていたそうです。鏡に映る自分の姿を見る度に、苦しみが込み上げていたのでしょう。もしかしたら、やっと罪滅ぼしを自らの手で終わらせる事ができたのかもしれません。勿論、私はどんな形であっても生きていて欲しかったのですが。
 それから、他国軍の駐留は今後もないそうです。これはあの方が半生を賭けて、米軍縮小と撤退を交渉し続けた成果だと思います。これだけでも、私はあの方の罪滅ぼしは出来たと思っています。
 いずれにしても、私は残る余生もこの地で、豊作の実る畑と共に過ごすつもりです。
 とりとめのないことばかり書いてしまいました。どうかお許し下さい。まもなく、貴方が現れた季節です。是非貴方ももう一度、御旅行でいらして下さい。
 まずは取り急ぎ御挨拶かたがた御礼まで申し上げます。

かしこ 

追伸
 貴方の物と伺った品を同封致しました。御確認下さい。

 後藤銀河様

 二〇二七年六月六日
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