「G」 chronicle

□第四章 タタカイトイノリ
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「旅人さん。この辺りでいいかい?」
「ええ。ありがとう。」

 馬車の荷車に寝そべっている旅人に、馬車の主が声をかける。旅人は荷車から降りると、馬車の前に行き、馬に持っていた野菜を与えた。

「ありがとね。」
「旅人さん、いいのかい?この山を超えた先の国、今戦争中で何にも無いらしいが……」
「いいの。私なら大丈夫だから。」
「そうかい……無理はするなよ。」

 心配そうに旅人を見つめる馬車主をよそに、旅人、ナナミは山道を歩み出した。




 どれくらい、長い時間だろうか?ナナミが故郷である島国を旅立って、もう何百年にもなる。しかし、ナナミの容姿はあどけない少女のままだ。その理由は、彼女が爾落人と呼ばれる特別な存在だからだ。彼女はありとあらゆる時間を支配し、操る事ができる。

 その気になれば、自分以外の時間を早送りさせ、時を渡る事もできる。しかし、この旅の間、ナナミは自分以外の時間は極力普通に流していた。このゆっくり流れる時間の上で、世界を見て回ると決めたからだった。

「もう少し……」

 国境のある峠はもう、目と鼻の先にある。

 
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