小説 K
□「おいでよ転校生」
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「ガキみてぇな面しやがって」
政宗を見送った後、小十郎はマンションのベランダから政宗を眺めていた。
実家ではまず見せる事の無い無邪気さに、口許を綻ばせる。
「さあて、俺も仕事しますかね」
食器洗いを終わらせ、メールチェックをする。
仕事のメールが来ているかもしれない。
「小十郎、俺と東京に行ってくれないか?俺…小十郎以外考えられねぇ。」
政宗に誘われて二人暮らしを始める事一年とすこし。
家業を継ぐ事が決まっている政宗は、最後に自由を求めた。
「親父…東京の高校に通わせて下さい」
井草の香り漂う、昔ながらの床の間。
輝宗は腕を組み、悠々と構えている。
政宗は輝宗に懇願した。
どうしても友達が欲しいんだ
と、真剣な左目。
「わかった…しかし条件がある」
東北では奥州組若頭は有名だ。普通の友達なんか、出来やしない。
そんな政宗の気持ちを汲み取り了承してくれた輝宗。
「誰か供を、自分で選びなさい」
彼が唯一課せた条件だった。
政宗が迷わず自分を選んでくれた事が嬉しかったなぁ…。
って浸ってる場合じゃない。
今日も輝宗様のワガママ…いやいや、仕事に応えねば。
東京に来てからも、輝宗からメールで仕事を頼まれている。
色々な事に手を出していら、いつの間にやら大きなグループ会社となった奥州組。
やることは色々あるのだ。
□伊達輝宗
■今日の仕事
□
ぐっどもーにん、小十郎!
政宗は元気かい?ちゃんと人参も食べさせてるかい?
(一部省略)
宿題やってるかい?友達はいるかい?
あ、今日の仕事は宅配便で届くからそれ見てくれ。
宜しく。
後、鳩サブレ食べたい。
夜露四九。
伊達輝宗
はあ…。
輝宗様は幼き頃よりお仕えし、育てていただいた恩もある。
何より、人物として非常に尊敬しているのだ。
が。
なんでメールだとこんななんだ…!
この間だって。
あいつら仲間にしたいからかぶ買っといて。
八百屋かよ!
グループの傘下にしたいから株買い占めろって事なのだが…。
はぁ…疲れる…。
ピンポーン。
宅配便だ。
これに今日の仕事がかかっている。
運送業者から渡された段ボールを前に、小十郎は深呼吸を一つ。
はっきり言おう。
火の中水の中拳銃の弾の中なんて怖くない。
けど。
だけどっ。
この段ボールの中は怖い。
神様仏様軍伸様政宗様…。
小十郎にほんのちょっぴりでいいからご加護を下さい。
ばりっ。
中から出てきたものは、見覚えのある一着の服と手紙。
筆で書かれた、達筆な輝宗からの書簡。
自然と頬に汗が伝う。
「な、なんだってーー!」
小十郎の悲鳴が青空一杯に響き渡った。
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