短編参

□「幸福な家」
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快晴の天気だった。
かつては山小屋のあった場所には、つい最近完成したばかりの綺麗な一軒家が建っている。
その付近に止めてあるトラックに詰められた荷物の一部を、少女は両腕を使って抱えた。
しかし、思ったよりも重いもので少女の顔はやや引き攣った。

「クルック、それは俺が持つよ」

それを阻止したのが、数年前までこの地で療養生活を送っていた少年だった。

「じゃあお願いね。アンドロポフ」

クルックと呼ばれた少女は、素直に少年に手渡す。
少年、アンドロポフは用意に荷物を受け取り家の扉を開けて運んで行った。

クルックはそんな彼の広い背中を見つめ、目を細めた。



‐幸福な家‐



上位生命体との戦いから四年が経った。
幸い、犠牲は少なく英雄ブルードラゴンのカゲを持つシュウと黒竜ノイ。そしてローゼンクロイツと白の旅団の共同参戦により人類は生き延びることができた。
クルックも参戦者の一人で、アンドロポフも元ローゼンクロイツのメンバーとして、いや、クルックの意思を尊重して参戦した。

彼はまだ闇戦のときの傷が癒えてないのに関わらず……。

もちろん、クルックは常にアンドロポフの身を案じていた。
彼がカゲを使えるようになるまで回復したとはいえ、途中でふらつく事もあったのだ。
それが旅に進むにつれ、アンドロポフの体は癒えていった。恐らく、彼の精神が体を強くしたのだろう。
杖を使う必要もなくなり、とうとう上位生命体との戦では以前の軍服を纏って参戦した。

そして、戦争が終わった後。
二人は暫く別れていた。まず、アンドロポフは人工カゲ使いの力を活用してローゼンクロイツの再建を手伝い。
クルックは看護士の助手として病院を転々と渡った。

気づけば、時は四年。
手紙で少しの交流はあったが。やっと世界が落ち着き安定が保たれて再会したとき、二人は十六才となっていた。

まだ幼かった少女は女に近づき、背格好が小柄だった少年は男に近づいて、成長期を迎えた。
だから、再会した二人の顔は不自然に赤く染まった。
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