短編五
□「火の花嫁」
3ページ/15ページ
身なりは汚いが、子供の素顔は可憐だった。
もっと磨けば、より美しくなる。青年は欲のままに再び子供の服を掴んで屋敷に連れて行く。
浴室に着くと、青年は子供の服を強引に引き裂く。体には痛々しい痣があった。中には真新しいものもあり、日頃の村のこの子に対する仕打ちがわかる。
それだけじゃなかった。体が細すぎる。明るいこの場所で見れば、栄養不足で顔色は悪く肌色も土色に近い。
それに眉を顰め、青年はシャワーで子供を洗い始める。石鹸等を使い、全てを奇麗にしてやった。
次に服を着させ、大量の飯を大至急に用意した。
長いテーブルに並ぶ料理に、子供は目を輝かせて食らいつく。マナーを知らないせいで、スプーンもフォークも使わない。手づかみだ。
あとでマナーを教えなければ、と青年は眺めながら思った。
全ての料理を平らげ、子供は満腹で幸せそうに笑い、大きな声で青年にお礼を言った。
「ありがとう!!」
「!・・・」
「悪魔、いい奴だな!!」
「別に・・俺は」
感謝の言葉に慣れていない青年は、かっと赤面する。
返答に困り、俯いて考えるとガタンと倒れる音がした。椅子と共に子供は倒れ、荒い呼吸を繰り返す。
「おいっ大丈夫か?」
「気持ち悪い・・」
青年は駆け寄り、子供の顔色を様子見る。
さき程より悪い。多分疲れが一気に押し寄せて・・いや、それ以前にこの子は。
「お前・・医者に看られたことあるか?」
「ねぇ・・一度も」
「そうか・・」
病気だったのだ。
青年はたくさん空いている部屋に子供をベッドに寝かせた。
普段使わない薬を使って、献身的に看病した。
額のタオルを何十回も変え直し、顔色がだいぶよくなった頃に子供はパクパクと口を開閉させ、耳を近づけると擦れた小さな声が言った。
「ルフィ・・おれ・・ルフィ・・」
子供の名前だ。
そういえば、名前を聞いても教えてもいなかった。
「・・っ!俺は、エース」
「エーシュ・・あり・・がと・・ほんとに・・ありが・・と」
また、感謝の言葉だ。
この子供はお礼を言うのが好きなのか。慣れないエースはまたもや赤面する。
「いいって・・早く元気になれ。俺がついてるから」
「・・うん・・」
ルフィは、安堵の笑みを浮かべて再び眠りについた。
エースは痩せた頬を撫で、これならば大丈夫だと胸を撫で下ろす。
「・・・・俺、何してんだ」
エースは自身に驚いた。
子供を犯そうと企んでいたが、ルフィの素顔に心を奪われ、献身的に尽くしてしまった。
しかも、元気になって欲しいと心の底から思ってしまった。
人間から忌み嫌われ、恐れられた“火の悪魔”だというのに。