短編五

□「火の花嫁」
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身なりは汚いが、子供の素顔は可憐だった。
もっと磨けば、より美しくなる。青年は欲のままに再び子供の服を掴んで屋敷に連れて行く。

浴室に着くと、青年は子供の服を強引に引き裂く。体には痛々しい痣があった。中には真新しいものもあり、日頃の村のこの子に対する仕打ちがわかる。
それだけじゃなかった。体が細すぎる。明るいこの場所で見れば、栄養不足で顔色は悪く肌色も土色に近い。

それに眉を顰め、青年はシャワーで子供を洗い始める。石鹸等を使い、全てを奇麗にしてやった。
次に服を着させ、大量の飯を大至急に用意した。
長いテーブルに並ぶ料理に、子供は目を輝かせて食らいつく。マナーを知らないせいで、スプーンもフォークも使わない。手づかみだ。

あとでマナーを教えなければ、と青年は眺めながら思った。

全ての料理を平らげ、子供は満腹で幸せそうに笑い、大きな声で青年にお礼を言った。

「ありがとう!!」

「!・・・」

「悪魔、いい奴だな!!」

「別に・・俺は」

感謝の言葉に慣れていない青年は、かっと赤面する。
返答に困り、俯いて考えるとガタンと倒れる音がした。椅子と共に子供は倒れ、荒い呼吸を繰り返す。

「おいっ大丈夫か?」

「気持ち悪い・・」

青年は駆け寄り、子供の顔色を様子見る。
さき程より悪い。多分疲れが一気に押し寄せて・・いや、それ以前にこの子は。

「お前・・医者に看られたことあるか?」

「ねぇ・・一度も」

「そうか・・」

病気だったのだ。
青年はたくさん空いている部屋に子供をベッドに寝かせた。
普段使わない薬を使って、献身的に看病した。
額のタオルを何十回も変え直し、顔色がだいぶよくなった頃に子供はパクパクと口を開閉させ、耳を近づけると擦れた小さな声が言った。

「ルフィ・・おれ・・ルフィ・・」

子供の名前だ。
そういえば、名前を聞いても教えてもいなかった。

「・・っ!俺は、エース」

「エーシュ・・あり・・がと・・ほんとに・・ありが・・と」

また、感謝の言葉だ。
この子供はお礼を言うのが好きなのか。慣れないエースはまたもや赤面する。

「いいって・・早く元気になれ。俺がついてるから」

「・・うん・・」

ルフィは、安堵の笑みを浮かべて再び眠りについた。
エースは痩せた頬を撫で、これならば大丈夫だと胸を撫で下ろす。

「・・・・俺、何してんだ」

エースは自身に驚いた。
子供を犯そうと企んでいたが、ルフィの素顔に心を奪われ、献身的に尽くしてしまった。
しかも、元気になって欲しいと心の底から思ってしまった。

人間から忌み嫌われ、恐れられた“火の悪魔”だというのに。
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