短編参
□「幸福な家」
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『アンドロポフなの?』
『クルックなのか?』
男女の成長は異なる。
まず、男の背は伸びて声が低くなることだ。
女は丸みを帯びて、小柄になる。アンドロポフは当然、クルックより背は高い。
それに軍人という女っ気がなかった生活に戻ったせいかクルックの清楚さが何よりも純粋に見えた。
これを期に、二人は昔いた山小屋に再び戻ることにした。
二人は穏やかな生活を送ることを約束しており、ついに果たすことができたのだった。
山小屋は四年前にレジスタンスに壊されてしまい、なにもない。せっかくだからと前より広い一戸建てをその場に建てて二人は引っ越した。
引っ越しの片付けがまとまると、二人は外へ出て昼食にした。
大きな木の下で、緑が香る芝生は酷く心地がいい。
そしてクルック特製ランチを味わうのは久しぶりで、サンドイッチを食べるとアンドロポフの頬が緩む。
「相変わらず美味い」
「私が作ったんだから美味しいに決まってるでしょ」
「そうだな」
互いに微笑み合い、穏やかな生活が始まったことに心を踊らせながら、二人は会話を楽しんだ。
帰り道、クルックは昔と違う違和感に尋ねてみる。
「ねぇ、アンドロポフ。背、どのくらい伸びたの?」
「シュナイダーくらいは、伸びたと思う。計ってないから、いくつかはわからないぜ」
「すっかり私を超したわね。昔は私と同じくらいだったのに」
「へへ。そりゃあ、いつまでも小さいままじゃなぁ」
昔は、そこまで差はなかった。
目線が同じ。ところが、今ではクルックが見上げる形となっている。
淋しいような、喜ばしいような。それは幼なじみのシュウと友人のブーケの交際を知った時と似ていた。
皆、時が過ぎれば変わる。今、自分の隣でランチボックスを持って歩くアンドロポフは少年から青年に成長しているし、クルックだってそうだ。
それに…時が経ち、わかったことがある。大切な、温かな想い。
クルックは自然にふふっと笑いこぼし、アンドロポフは首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「なんでもないの」
「なんだ?」
「私達の家に帰りましょうアンドロポフ」
彼の大きな手を彼女の小さな両手で包むと、アンドロポフは頬を赤く染める。そして頷いた。
「あぁ…」
穏やかな生活。
これが、二人が求めた幸福の形。健やかに、楽しく過ごせるように。先の幸せに胸を膨らませ、二人の手は自然と繋がれた。
‐END‐