短編五

□「火の花嫁」
1ページ/15ページ

【ジャンル】ファンタジー
【傾向】暗 純愛 死
【R度】16


・最強の悪魔エース×生贄にされた少女ルフィ



【火の花嫁】


一人の男が、村に現れた。
高貴な身なりで、整った風貌は村人達に好奇な視線を注がれた。山奥の田舎に、あのような人間は珍しい。
旅人と思いきや、リュックも何も持っていない。実に不思議で、奇妙な男である。

好奇心旺盛な子供が、どこから来たのか男に訊ねた。
男は返した。ずっと前から近くに住んでいると。

それはおかしかった。
山々に囲まれた村以外に、人が住む場所などないからだ。

そこで、子供が続いて訊ねた。何をしに村まで来たのか。
男は返した。ただの暇つぶし。

すると、道端に散歩していた犬が男に吠えた。それも絶叫に近い吠え方で。
続いて子供は驚嘆した。水たまりに、男の姿が映っていなかったのだ。

村人の大人達は、一斉に男を囲った。
男は彼らの反応に嫌悪を示した顔を浮かべて、瞬く間に全身を焔に変えた。
焔は天に飛んで行き、山へ向かう。その山には、遥か昔から悪魔が住むと言い伝えられた洞窟があった。

その日の村は、悪魔が現れた事に悲観して混乱に陥っていた。

村長は館に大人達を集め、提案した。悪魔に生贄を差し出し、もう村に近づかないよう交渉しようと。大人達は賛成した。だが、肝心の生贄は一向に決まらなかった。

生贄なら処女の娘。
どの大人達も子供を悪魔に差し出すことを拒み、子の可愛さから言う気配はない。このままでは決まらないと悩んだとき、外から罵声が響いた。

大人達は外に出てみると、中年男が、小さな子供を蹴っていた。

子供はゴミを荒らしていたらしく、男が制裁していたとのこと。痛みに声をあげて泣いるのにも関わらず、大人達は一切の同情を示さなかった。
むしろ、嫌悪な眼差しで子供を見つめていた。その子供は村で唯一の孤児だ。
出生も最悪で、両親を村の恥じとして疎んでいた村人は子供を引き取る行動を起こしたことも、人としての情も抱いたこともない。

そのせいで、孤児は汚かった。
髪はボサボサで整えていないせいで顔も見えない。身なりは酷く異臭が漂っている。
嫌なものを見た、と大人達が非難したがある事に気づくとニヤリと口元を歪ませる。



翌日、孤児はぞんざいな扱いで捨てられた。
山の洞窟前に地面に叩き付けられ、嫌だと連れて来た大人にしがみつくと容赦なく蹴られた。

その孤児は、女の子だった。

大人達は一目散にどこかへ消えてしまい、孤児は途方に暮れた。
泣くことしかできなかった。食べ物もなく、水もない。頼れる人がいないのはいつもだったが、このままでは悪魔に食べられてしまう。
恐くて恐くて堪らなくて、孤児は泣き叫んだ。それは洞窟の奥深くに響き渡り、孤児の背後に声が降って来た。

「お前・・何だ?」

「・・・っあ」

朱色と漆黒色の格好をした青年だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ