短編7
□「情は灯し」
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【ジャンル】現代
【傾向】幼なじみ 学園
【R度】15注意
ゴール・D・エースは舌打ちをした。
中等部校舎。二階の長い廊下。生徒達は上級者である彼を避けるように通っていく。歩みを止めたエースに、お供のサボが声をあげる。
「どうしたエース」
「別に」
「〜ん?」
サボは品の良い微笑みを浮かべると、前方を注視。エースは背中を向けて、反対の方向へ歩き始める。
サボはあぁ、と納得した顔を浮かべてエースの後ろへ着いて行く。
「声かけなくてもいいのか?」
「あぁ・・職員室に行くだけだしな」
「きっと後で文句言われるぞ」
「お前が言わなきゃいい」
「俺が言わなくても、もう広まってんだろ。高等部の生徒が来るのは珍しいし・・それに、結構俺達有名だし」
ふふ、とサボは笑う。
彼の言う通り、廊下を歩くと教室の扉からこっそりとこちらを見つめてくる女子生徒の熱い視線を感じる。
サボは愛想の良い笑みで「どうも〜」と手を振りながらご挨拶。
女子生徒達は「きゃああ」と黄色い声をあげる。いつものエースなら軽く挨拶ぐらいはするが、今は機嫌が悪く余裕がない。
「おい、とっとと用事済ませるぞ」
「機嫌悪いな〜お前。そんなに来たくなかった訳?」
「当たり前だろ!だって・・」
「お、エースにサボじゃねぇか。何の用だ?」
目的地の職員室前。
ある人物にエースの不機嫌は最高潮に達する。
こいつがいるから中等部(ここ)に来るのは嫌なのだ。
【情は灯し】
エースは自室で、怠そうな表情で彼女を迎え入れた。
「エース、今日の昼に中等部に来てたんだって?」
中等部三年、モンキー・D・ルフィは腰に腕を当てて言った。
エースはこくりと頷く。ルフィはぷうっと頬を膨らませた。
「何でおれに声かけないんだよ!三時間目の数学、ケムリンで当たりそうだったから問題教えてもらおうと思ったのに!」
「んなもん自分でやれ。どうせナミちゃん達に教えてもらったんだろ」
「ぶぶ!ナミは有料!ゾロもサンジもわかんねぇし、ウソップはケムリンにびびって教えてくれなかった!」
「じゃあ自分でやるしかねぇな〜」
「結局できなくて、おれ叱られた」
「解けねぇのが悪ぃ。俺のときは早弁したとき葉巻投げられたぞ」
「うわ、こえ〜!どっちもこえ〜!でも弁当は食いてぇ〜!」
驚くルフィだが、すぐにきゃっきゃと笑い出す。
とてつもなく前向きな性格である彼女は、いつも笑顔を絶やさない。
エースも吊られて笑うが、すぐに昼を思い出すと表情が曇った。
「エース?」
エースは少し沈黙を置いた。
「昼・・さ、お前あいつといたろ」
「あいつ?シャンクスか?」
「あぁ」
「何話してたんだ?」
「別に〜。出席簿置き忘れたって教室来ただけだぞあのセンセ」
今日の昼。
エースは昼寝した罰として担任に「お使い」を頼まれていた。
中等部の先生から画材を貰ってくるように、と。中等部校舎に行く機会はあまりないので、エースはルフィに声をかけようと教室へ向かった。
あいつと会わないよう心の中で願いながら。しかし、会ってしまった。
エースの許さない、最悪の形で。
「・・・俺は会話の内容を聞いてんだよ」
「だから、そんな大した話じゃねぇよ。今日の昼飯はどうだったか、とか。そんな感じだから」
「そーか・・」
ほっとしたくなるも、ほっとなんかしたくない。
なんとも歯がゆい、この気持ち。
幼なじみ。
エースとルフィは物心ついたときから一緒で、兄妹のように育ってきた。
ときに可愛さもあって苛めたこともあったが、今でも学校へ共に登校しており、友好的な関係は続いている。
「エースはシャンクスに会ったか?」
「・・あぁ、職員室前でな。お前のクラスに寄った後、偶然」
「そっか〜。あのな、シャンクスってエースのこと気に入ってんだぞ。いい身体してるってさ。羨ましいなぁ、シャンクスに褒められて」
ルフィは羨ましげに呟く。
それに対して、エースは眉間に皺を寄せた。
シャンクスとはルフィのクラスに教える中等部の体育教師だ。
エースが三年前在籍していたときはクラスが異なる関係で別の教師だった。
エースが廊下でシャンクスと顔を合わせたりすると、気さくに挨拶をしてくれた。シャンクスの担当するクラスでは彼の授業は評判良く、そっちがよかったと思うときもあった。
最初から、不快な気持ちなんてなかった。
『おれ、シャンクス好きだ』
二年前。そうルフィが言うまでは。