middle

□夏雲ストリーム
4ページ/6ページ




ひたかは一瞬眼を見開いて、しかしすぐに微笑んだ。




泣きそうな、顔をして。








「――れん、ほら……もう一回、触ってみてよ」



ゆっくりと、手を差し出す。



「……さわれるよ、俺、ここに居るよ……」



ふる、とれんはもう一度首を横に振った。

今にも泣きそうなひたかを前に、彼女は既に涙を流していた。



「っ……れんは、俺が怖い?気持ち悪い?」



「っちが、」



「うそだ、じゃあ何で拒否してんだよっ」



「ひたかは……れんとは違うの?一緒じゃない、の?」



同じだと思ってたのに。
似たもの同士だから、仲良くなれたのに。



「れんをっ……騙してた、の?」



「騙してなんか!俺だって、れんにちゃんと話さなきゃって……でもせっかく友達になれたのに、言ったら怖がらせるかもって」



「怖いよ!」



「っだ、から……っ」



ひたかが、遠くに行っちゃいそうで、怖いんだよ。





「――どうして、触れなかったの……?」



「……意識して、なかったから」



「意識してると触れるの?」



こくりと、ひたかは頷く。



「あの、眼が……ひたかが時々見せるあの眼が、すごく怖い……」



「……うん。多分……その時の俺には、触れない」



依然として差し出されたままの彼の右手は、僅かに震えていて。
遠慮がちに一歩近付いたひたかのその手に、れんはゆっくりと腕を伸ばす。



「――そこの祠……」



びくりと、ひたかの肩が一層揺れるのがわかった。

れんは続ける。



「あそこにいるのは……」



れんの小さな手が、紙一重にひたかのそれの前で、停まった。






あそこに、祀られているのは。














「っ――、俺、だよ……っ」






「……!」









触れる直前で停まっていた手を引いて、れんはひたかに背を向けた。




「れん!待って、」




名前を。


一目散に走り出し見えなくなった彼女を、追うことは出来ない。



「……れん」



日尭の眼から、雫がこぼれた。











――――地面に、水跡は残らなかった。






NEXT..
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ