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□夏雲ストリーム
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ひたかは一瞬眼を見開いて、しかしすぐに微笑んだ。
泣きそうな、顔をして。
「――れん、ほら……もう一回、触ってみてよ」
ゆっくりと、手を差し出す。
「……さわれるよ、俺、ここに居るよ……」
ふる、とれんはもう一度首を横に振った。
今にも泣きそうなひたかを前に、彼女は既に涙を流していた。
「っ……れんは、俺が怖い?気持ち悪い?」
「っちが、」
「うそだ、じゃあ何で拒否してんだよっ」
「ひたかは……れんとは違うの?一緒じゃない、の?」
同じだと思ってたのに。
似たもの同士だから、仲良くなれたのに。
「れんをっ……騙してた、の?」
「騙してなんか!俺だって、れんにちゃんと話さなきゃって……でもせっかく友達になれたのに、言ったら怖がらせるかもって」
「怖いよ!」
「っだ、から……っ」
ひたかが、遠くに行っちゃいそうで、怖いんだよ。
「――どうして、触れなかったの……?」
「……意識して、なかったから」
「意識してると触れるの?」
こくりと、ひたかは頷く。
「あの、眼が……ひたかが時々見せるあの眼が、すごく怖い……」
「……うん。多分……その時の俺には、触れない」
依然として差し出されたままの彼の右手は、僅かに震えていて。
遠慮がちに一歩近付いたひたかのその手に、れんはゆっくりと腕を伸ばす。
「――そこの祠……」
びくりと、ひたかの肩が一層揺れるのがわかった。
れんは続ける。
「あそこにいるのは……」
れんの小さな手が、紙一重にひたかのそれの前で、停まった。
あそこに、祀られているのは。
「っ――、俺、だよ……っ」
「……!」
触れる直前で停まっていた手を引いて、れんはひたかに背を向けた。
「れん!待って、」
名前を。
一目散に走り出し見えなくなった彼女を、追うことは出来ない。
「……れん」
日尭の眼から、雫がこぼれた。
――――地面に、水跡は残らなかった。
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