Girls

□僕だけに甘い君(綱雲♀*甘)
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※相互リンク記念小説。


久方振りにボンゴレの屋敷に顔を出した兄弟子は、何故か全身包帯だらけの満身創痍の姿で。
数分前に同じく執務室を訪れた自分の『雲の守護者』を見るなり、さっと顔を青褪めさせた。

「…なんだ。まだ死んでなかったの…?」

紅(ルージュ)の引かれた艶のある唇に凶暴な笑みを宿す『守護者』と、冷や汗を垂流しながら後ずさる兄弟子の姿に事態を察し、慌てて不穏な空気を漂わせそうな両者の間に口を挟む。

「あっ、あの!喉渇きません?紅茶淹れますよ、俺。」

立ち上がりかけた自分の前に白い手が翳される。
ぱちぱちと瞬く自分に小さく笑んで、両の掌を中途半端に腰を上げたままの自分の両肩にそっと置くと、彼女はそのまま椅子へと俺を戻した。

「君だと危なっかしいからね…、僕が淹れるよ。君は座ってな。」

くるりと踵を返し、執務室に備え付けられている給湯室へと彼女が消えれば、途端に隣りから心底気が抜けた様な深い溜め息が吐き出される。

「おっかねぇ〜…、殺されっかと思ったぜ。」
「一体何してそんなにされたんですか?したの、雲雀さんでしょ?」

どさりと革張りのソファに倒れ込んだ兄弟子に、自分もまた向かいのソファへと腰を下ろす。

ぐったりとした様子の彼に事の顛末を尋ねれば、曰く。


「胸を………触った?」


と、の事。

「わざとじゃねぇよ、勿論。一昨日、偶然行きつけのバーで顔合わしてな。んで、一緒に飲んで、酔っ払って、帰ろうとした時に蹴躓いて、身体支えようとしたらあいつの……その……掴んじまって…。」
「……怒ったでしょうね、雲雀さん。」
「あぁ…、酷ぇ目にあったぜ。」

その時の様が容易に想像がついて、目の前で身体を震わせる彼同様、思わず自分の身体にもぶるりと盛大な悪寒が走る。

相当な地獄絵図だったろう。
店の方でも多大な被害を被ったに違いない。

…まあ、マフィアに苦情を寄越す怖い物知らずもいないだろうが、元家庭教師の耳には届いていることだろう。

――また自分が怒られるのだろうと思うと、少々やりきれない。


「……寒いの?君。」


かちゃりと目の前のテーブルに置かれたティーカップに驚いて見れば、すぐそばに白皙の美貌が覗き込んでいた。

不思議そうに僅かに首を傾けて、微動だに出来無い自分の額に―――なんと額を当ててくる。

予想だにしていなかった事態と、目の前の近過ぎる綺麗な顔に脳が沸騰しそうだ。
どきばくと煩い自分の鼓動を聞きながら、吸い込まれそうな黒い瞳に魅入られた様に動けない。

「…熱は無いみたいだけど。」
「……。」
「沢田?」
「!あ、だっ、大丈夫です!何とも――――っうわッ!?」
「沢田ッ!」

動揺から反射的に立ち上がり、距離を取ろうと退いた足が何かを踏みつけた。
バランスを崩し、背後の硬い床に倒れ込みかけた自分の腕を、―――咄嗟の判断だろう。
『守護者』が掴み、強く自分側へと引き寄せた。


「…っうぷッ!!」
「……ッ!」


だが、彼女にも俺の身体は受け止めきれず、縺れ合ったまま二人してソファの上へと倒れ込む。
直ぐさま身を起こして見下ろせば、下敷きにしてしまった彼女が僅かに顔をしかめていた。

「ひ、雲雀さんすいませんっ!!大丈夫ですかッ!?」
「……別に、何とも無いけど、君はもう少し落ち着きを身に着けた方がいいね。仮にも“ボス”でしょ?」
「す、すいません……。」

言葉も無い。

がくりとうなだれたまま彼女の上から退こうとして、


ふと―――――自分の手が、何か やわらかいもの を掴んでいる事に気付く。


心地良い弾力。

掌に収まりきらない、

マシュマロの様に柔い、感触。





や わ ら か い も の …… ?





「……ツ、ツナ……っ」

今まで無言でいた兄弟子が端整な面を歪め、震える声で自分を呼んだ。
その顔色は青いを通り越し、まるで死人の様に血の気が失せている。

目に浮かんでいるのは明らかな『恐怖』。

これから起こり得る事態と、
その事態を引き起こした加害者であり、故に被害者にもなるであろう俺への、多大な憐憫をも含んでいる。

見開かれた瞳には水の膜まで張っていた。
今にも零れ落ちそうだ。
俺だって泣きたい。
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