Girls

□君に甘く満たされる(綱雲♀*甘)
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※相互リンク記念小説。


(――触れたいな、)

もう、何度目かわからぬ呟きを胸の内で零す。

執務室は静かだ。
遠く鳥の囀りが聞こえ、
サラサラ とペン先の走る音、
紙の捲られる乾いた音だけが 響いている。

ちらり、
彼の方を伺えば、
彼は自分がこの部屋を訪ねた時から変わらず僅か俯き、
黙々と目の前に積み上げられた書類の山に挑み続けていた。



……少しは休めばいいのに。

もう、小一、二時間程放置されている この 状況。
もうそろそろ我慢の限界も近い。

目と鼻の先にある彼の存在に、本能(よくぼう)に忠実な心と身体は焦れている。

欲求不満で今にも死にそうだ。


触れたい。
抱き締めたい。
キスしたい。


あの琥珀色に、
スーツの下のしなやかな躰に、
肌理細かな肌に、
触れて舐めて味わいたい。

際限無く溢れてくる欲望に果てなど無くて、
寂しさと虚しさに身の奥が疼く。
熱情を持余しソファの上で丸くなれば、離れた場所から くすり、
小さく笑む 気配。

顔を向ければ、彼と 目が 合った。

頬杖を突き、日の光を受けてとろり と飴色に蕩けた双眸をやんわりと細め、何処か楽しげに、
何か面白いものでも見る様に見つめている。

「……何、」

――人の事、ジロジロ と。

抱き締めたクッションに顔を埋める様にして不機嫌に問えば、
彼は更に笑みを深めて、

「 いえ、 」


構って欲しいのかな―――、って。


「!、」

瞬時に かっ 、と頬が熱くなる。

「拗ねた子猫みたいな顔 してるから、」



『さわって』

『なでて』

『かわいがって』



――って、

言いたそうな目をしてちらちら見て来るから、可愛いくって。

そう告げる彼に、羞恥が煽られる。

ずっと自分の視線に気付いていながら、この男はずっと放置していたのか。
物欲しげに見つめる自分を、ずっとおもしろおかしく観察していたのか。

それに気付かぬ自分はさぞや滑稽であったろう、この男には。
我慢して待っていた自分が馬鹿みたいだ。

「……別に君なんかに構われたくない。此処にいるのはただ単に暇潰しだよ。他に理由なんか無い」
「あれ?違ったんですか。でも、逆に退屈そうですよ、雲雀さん。暇を潰したいなら他に行ったらどうですか?俺は暫く手が離せませんし、リボーンとかにでも相手して貰っては?」
「…………、」

……暗に、

出て行けと言われている様で腹が立つ。
そんなに僕が邪魔な訳?

「……そうだね、わかったよ。行くよ。君にも用は無いし」
「そうですか。その方が俺も仕事が捗るので助かります」
「………………。」

唇を引き結び立ち上がる。

扉の前に立ち、ノブに手を掛けても、
気配でわかるだろうに彼は顔も上げず、引き留めもしない。

ここでこの部屋を出れば本当に無意味に時を浪費した事になる。

ちらり、と未練がましく彼を伺うも、やはり彼は書類に目を落としたまま視線さえ上げない。
その事実が酷く寂しくて、
怒りと苛立ちが急速に温度を無くし、ノブに掛けた手から力が抜ける。

するり、
滑り落ちた手をだらりと垂らし、俯く。


本当は、

こんな風に、意地を張りたい訳じゃない。


見つめるだけでもいい、
彼と同じ空間にいて、同じ空気が吸えるだけでもいい、
触れられなくても寂しいけど、我慢するから、



きみ の、



(――君の 傍に いたい。)

「………ね ぇ、」
「はい?」
「僕は、目障り?」

答える彼の顔は見れなくて、背を向けたまま問うた。
僅かな間の後、
彼はまた 小さく笑って、

「……そうですね。正直、」
「…っ、」
「貴女への欲情抑えるのに必死で、仕事がままなりませんから」
「…………。」


………ぇ、?


振り向けば彼は これ以上無いくらい愛おしげに、
僕を見ていて。
その目が余りにも優しくて、
思わず 飛び込んでいきたくなる。



その腕の中へ。



「雲雀さんだけじゃない。俺だって触れたい」


それこそ、
一瞬でも貴女を奪われぬ様にずっと、
この腕の中に捕らえておきたい。


「でもあんまり可愛い顔して雲雀さん見つめてくるから、触れるだけじゃ治まりそうにないんですよね。今」


そしたら、
さっさとこの仕事片付けて、
ゆっくり貴女と過ごす時間、
先になってしまうでしょ?

俺だって我慢してたんですよ、ずっと。
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