† Novel †

□救いのない非日常
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ばーか。

オメェは探偵だろ。

俺が唯一認めた名探偵だろ。


なにクダラナイことやってんだよ。

ばかやろう。







白い鳥は、
夜の仕事にスリルと儚い恋心を飾った名探偵が大好きです。
彼の家に夜な夜な忍び込み、晩酌をするくらい仲良しです。

黒い羽は、
物足りない日常に色と儚い恋心を飾った新一が大好きです。
学生の本業よか家に入り浸り、飯を囲むくらい仲良しです。

そんな俺を呆れた顔で、温かく見守ってくれる母さんや隣のおじさんも大好きなんだ。
だって、新一と喧嘩して擦傷だらけで帰ってきた俺に、母さんは絆創膏を出しながら謝って来なさいといってくれるんだ。
そして、おじさんは俺の傷だらけな顔をみて笑いながら、その大きな手で背中を思いっきり押してくれるんだ。

だから、仲直りしたあとには二人して傷の癒えていない顔で母さんとおじさんに会いにいくんだ。

いつでも二人で、母さんの手料理とおじさんの若かりし頃の話に笑えるんだ。





なのに。
どうしてだよ、新一。




工藤新一が犯罪者になりました。




何でだよ、馬鹿野郎。

涙で歪んだ視界に新一の小さく笑った顔が見えた気がしたんだ。


俺が学校から帰ると泣いている母さんが居た。
おじさんは課が違うにも関わらず警視庁に走っていった。

極一般的な、なんの捻りもない殺人だった。

それは新月の夜、人通りの少ない路地裏で起こった。
影からふらりと現われた有名人、工藤新一。
虚ろな瞳で何かに脅えたように、叫びながらナイフで斬りかかり・・・ 後は見るも無残な光景となっていた。
目撃者は居合せた同僚、彼はすくんだ足で工藤新一が罪を犯す一部始終を見ていた。
保護された同僚は震えながらも新一の発した言葉を繰り返すだけだった。
『何処にいる』
被害者は都内の医薬品会社に勤める男性、勿論、組織の人間なのかと俺も考えた。
しかし警察がどんなに洗っても彼からは何も怪しい所は見つからなかった。
もちろんキッドの情報網を駆使しても結果は変わらなかった。

死人に口なし、改めて思い知った。

返り血を浴びた新一はその場から姿をくらまして未だ見つからない。
警察は勿論キッドや寺井の情報網にすら引っ掛からない。

指名手配になった新一は今なにをしているのか。
新一のことだから本気を出せば雲隠れなど容易のだろうか。

それとももう組織の奴等に・・・


考えるだけ、唯の想像なのに勝手に涙腺が緩んでパーカーに染みを作る。
世間が騒ぎ点きっ放しのテレビはチャンネルをどんなに回してみても同じニュースを流すだけだった。
どうせ右から左に流れるんだ、無意味だな。
自嘲気味に笑いながらリモコンを押せば不愉快な音をたてて画面が黒に染まる。

あぁ新一、目の前が真っ暗だよ。





夜、と言うには遅いような11時。
音もなく立ち上がった母さんが夕食を作っていた。
トントンと慣れた手つきで野菜を刻む後姿を見ながら冷蔵庫から気の抜けたコーラを取り出す。
軽く振ってから蓋を開けると無臭な二酸化炭素が溢れ出すのが分った。
ラッパ飲みをしながらソファにうずくまれば目の前のローテーブルに芳ばしい香りのお好み焼きが置かれた。
母さんの得意なお好み焼きは冷蔵庫にあるものを適当に切って焼くだけ、オムライスのような感覚だ。

無きに等しい食欲を無視した量に苦笑いをしながら箸を取り、味を感じることなく静かな夕食を終らした。




時間は相変わらず我が物顔で朝を強制する。
寝た記憶もあやふやでしょぼついた目を擦りながら学校の仕度を済ませる。
それからいつもやっていたように携帯を開く。遅刻常習犯の新一へのモーニングコールは既に習慣だった。
長い電子音の後に流れる電源が入っていないか使われていませんと言う美しい女性の声を聞き立ち止まる。
「まだ寝てるのかなぁ」
そこから世間の時間が偽者のように時が動く。一歩も動けなくなった脚を見ながら長い時間を過す。

「ねぇ新一、今、何処にいるの」

ぽたり、フローニングに小さな水溜りを作る自分はきっと情けない顔をしてるんだろうな。
ふいっと頭を振りやっと行動を起す。学校に行くには遅い時間になっていることに気付いて、いそいそと制服を脱ぐ。
どうせいったって皆に気を使わすんだよ、メンドーだ。
冷凍庫からケーキに付いて来た保冷剤を取り出しタオルに包んでから目蓋にあてる。

あぁ、母さんは買い物なのか・・・

ローテーブルに乗ったパンの表面は乾燥して乾いた唇に痛かったが、何処かで痛みを望んでいる自分がいた。
そんなことに気付いて危ねぇ奴だなと客観的な思想に行き着いた。
もしも今目の前にナイフか剃刀、もしくは人を殺すほどの力を秘めたトランプ銃があったのなら気が付いた時には血の海になっているだろう。
改めて綺麗に片付けられたキッチンに感謝した。


数日たった今も何も進展のない状態。警視庁のパソコンをハックしながら常日頃利用している集音機を駆使して情報を集める。

わかったことは一つ、絶対に警察は新一を確保できない。

まぁ俺すら捕まえられないんだ、無理もないさ。
おじさんはあんなに頑張っているのにね。

一課にしかけられた集音機から目暮警部の声がした。
目暮警部の家にも二人して遊びに行った、散々惚気を聞かされた。
小さいときから知っている人が行き成り指名手配じゃ気も休まらないのだろう、此処何日か寝ていないのかずっと声がする。

「しーいちー。何処に行ったんだよ、もう、俺の前に現れてくれないのかよ」

目暮警部の声に重なるように小さい声で呟く。
よけい虚しくなるのはわかっているのに、なんとも自虐的になる。
 
 「ねぇしーいちー。今、生きていますか」
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