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□嫌いな根拠
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嫌いだ。
きっと互いに思っている。

俺が何かやれば必ず突っ掛かってくる。それはミッションについてだったり私生活についてだったり。
この前エクシアに無駄な傷を付けたらイワンよりも文句を言われた。あそこで避け切れなかったは悪かった、分ってるのに、それをねちねちといい加減にしてくれ。
その前はトレミーの洗濯当番の時だった。ピンク色のカーディガン、ウールだか何だか知らないが、まとめて洗っていたら後から殴られた。まともに洗濯も出来ないのかと言われたが石鹸で洗えない布なんて着るべきじゃないと思う。
やっぱり、俺はティエリアが嫌いだ。
そしておそらくティエリアも俺が嫌いだろう。

なのに。
なのにこの状況はなんだ。

チャイムの音に玄関を開けると不機嫌をあらわにしたティエリアが立っていた。

「刹那・F・セイエイ」
「…ティエリア・アーデ」


「次のミッションだ」
ミッションなら端末を通じ此方へ送られてくるはず、と首を傾げると彼は一枚の紙を差し出した。
そこには食品やネットに掲載すらされないマイナー誌、大量の酒類が書いてあった。
最後に『お使いよろしくねvスメラギ PS仲良くするのよ!』とコメントだけがあり本当にミッションなのかと思わずティエリアを見る。
「本物だ」
面倒だと溜息を付く、
「買い物なら俺一人でも出来る」
わざわざ一緒に行く必要もないだろう。
「未成年はアルコールを買えない」
「ならティエリアだけでこと足りる」
「誰が持つんだ」
「……最悪だ」
眉間に寄った皺が増した。



「早く用意しろ、さっさと終らす」
「…了解」
言ってそのまま出ようとすると止められた。
「顔を洗え、寝癖を直せ。それに電気を付けたまま行くきなのか」
腹立たしいことに頭を押され部屋に入れられる。そのままティエリアまで入ってくる。その必要はないはずだ。
手を振り解きながら仕方なく洗面台へ向かう。これ以上煩く言われたら堪らない。
冷たい水で洗い、顔を上げるとタオルを投げつけられた。用意してから洗えと説教付きで。
ああ煩い、そんなことロックオンですら言わない。むしろ彼は服を着るべきだ、風呂上りを見る度思う。
歯ブラシとコップが置かれただけの洗面台の鏡で髪を直す。濡らした手で撫で付けていればまた煩い声がする。
「櫛はないのか?ドライヤーは?」
「……見ればわかるだろう、そんなものはない」
必要ないじゃないか。いちいち言う為にそこに立っているのか、退いてくれ邪魔なんだ。
それから壁に背を預け此方を見ていたティエリアはそれから何も言わずに部屋を出て行った。



電気を消し鍵を閉める。
なんでこんな面倒な。赤いストールを巻きなおし先を行くティエリアを追いかける。
近くのショッピングモールへ行くのかと思ったがどうやら違うらしい。
首道へでた瞬間にタクシーを呼ぶのは遠いのか歩きたくないからなのか。
どちらにせよ付いていくしかなくその狭い車に乗り込んだ。

気まずいと思っているのは運転手だろう。安心しろ、俺達は常にこうだ。
ティエリアのつげた所は知らなかった、そもそもあのモールしか知らない。大抵のものはあそこで揃うから。
疑問に思っていたのが伝わったのか、安く済むんだと言われた。

ついた先はいわゆる商店街、様々な店が連なっていると言う所はモールと一緒だ。
見わたしているとストールを引かれた。やめろ、触るな、苦しい。
「はぐれるな。ここはモールと違って迷子放送は出来ないぞ」
「!―平気だっ」
手を払い睨みつける。どうしてこうも苛々させるんだ。
文句を言うため口を開こうとすると背を向け人ごみに紛れて行く。
「な、待て」
はぐれるとか迷子になるとか、そんなのではない。リストはティエリアが持っている。
だから、そのピンク色のカーデを追いかけるのはしょうがないんだ。


最初に入ったのは書店。
ネットで何でも手に入る時代でも潰れることなく沢山の書物が並ぶ。
「すみません、ここに書いてあるものを下さい」
メモを店主と思われる男性へ渡す、自分で探す気がないのが明らかだ。
少々お待ち下さいと言う声を聞きがら目の前にあった雑誌に手をのばす。
どうせあの量だ、時間はかかる。
手にした雑誌はティーン向けのファッション誌だった。
カップル写真のページが続き、ある女が目にとまる。
「ティエリアティエリア、お揃い」
態々声を掛けなければ良かった。
にっこりと男と腕を組んだ女の淡いピンクのカーディガン、指をさしていっただけ。
たったそれだけでティエリアは手元の雑誌で俺の頭を叩いた。
売り物をそんな風に扱うのはいけないと思う。なにせ痛かった。
店主が不審な顔だったが買い物はすんだ、当然のように押し付けられた雑誌が証拠だ。


次に食料品店へ向かった。
その場で焼いているのか芳ばしい魚の焼ける香がする。
カートに次々とものを入れていくティエリアの後を歩いているとお菓子コーナーに入った。
確かリストに菓子は入っていなかった、何故、と疑問に思う。
「……なんだ、好きじゃないのか?」
突然問いかけられた、菓子のことを聞いているのか。
「…嫌いではない」
「なら文句はないだろう」
言って次々とカゴに入っていくお菓子。チョコやクッキー、甘いものばかりだった。
嫌いじゃないから、何故入れるんだ、よく分らない。だが確実に荷物が増えていることは良くわかった。


両手に袋を持つ、重い。小さなバック一つの彼が憎い。
多少足取りがおぼつかないのも仕方がない、袋は腕を曲げていないと地面についてしまう。
弱い袋が破れれば面倒になる。そんなことを考えていたからか、迂闊にも目の前のピンクカーデは居なかった。

……やばい、まずい。
どこに行った?

そんな言葉が頭を駆け回った。
絶対またぐちぐちと嫌味を言われるに違いない。

慌てて辺りを見わたすが目立つはずの彼は見つからない。
そもそも彼は小さい、ロックオンやアレルヤと並んでいるとよく分る。
それを、言いたくもないが更に小柄な身体で探すことがどんなに大変か。
背伸びをしてみても結果は変わらない、通行の邪魔になるだけだ。
袋も重い、腕も痛い、ティエリアははぐれるし散々だ。
そうだ、勝手にはぐれたのはティエリアだ。この荷物だってティエリアが持たないから。

「………全部ティエリアが悪い…」


「そうか、それは悪かったな刹那・F・セイエイ」

「―!?」

背後から声がした。表情こそ変わりないが鼓動を意識するほどに驚く。
振り返ると目の前に不機嫌なティエリアが立っていた。
いつも不機嫌な彼が更に不機嫌な理由は分る。聞かれたのだ、独り言を。
「…………」
「で、いつまで突っ立っているつもりだ?」
通行の邪魔だ、とストールを強く引かれた。そしてひったくるようにして片方の袋を取られる。
そしてティエリアが持っていたバックを持たされる。袋より軽かった。
崩れたバランスを整えるよう踏み出したが既に先を歩くティエリアはストールを握ったままだ。
放してもらおうにも両手は荷物でふさがっている、開いているのは口だけだが何を言えばいいのか。
まずこの状況はなんだ。赤いストールに引かれ後を歩く。ありえない。
「離せ、離せ!」
あまり目立つことはしたくないが、犬の散歩のようなこの状況はすでに目立っているんだ。
声を荒げる。ほら、通行人が怪しんでしいるじゃないか。
「…迷子になった君が悪い、違うのか?」
「――はぐれたのは俺じゃない。俺は悪くない」
ティエリアはやっと立ち止まった。放され自由になったストールが戻ってくる。
「迷子になったのは君だ、俺は何も悪くない」
言葉に詰まる。もともと口論は得意じゃない。
なにも出来ずにいればティエリアは目の前の店を指差した。

「ここの酒屋でミッションは終わりだ、行くぞ」


慣れたように店主へメモをわたすティエリア。
銘柄もなにも知らない人が探し出すことは無謀だ、酒瓶の多さに思う。
書店のような失敗をしないため何も触れない。
そもそも酒瓶を見たって意味がない。未成年には関係のないものだ。
昔、飲んだことはあった。ただ苦く気持ち悪くなるだけのもの、興味はない。
ふと甘いものもあるんだよとアレルヤが言っていたことを思い出す。
アレルヤも自分と同じ未成年なのだがどうして知っているのか。
そんな考えもレジをすましたティエリアに呼ばれて終わる。
「通りに出てタクシーを呼んでこい」
「了解」
ああコレで帰れる。


家に着いた時、日は暮れていた。
ティエリアは明日の便で宙へ行き荷物を届けるそうだ。
袋を床に置き水をコップにあける。残りの多いペットボトルを横から伸びた手に取られた。
「…ティエリア」
「なんだ?」
「俺の水だ」
「食べろ」
噛みあわない会話の後目の前に突き出されたのはさっき買ったばかりのお菓子。
悔しいが間抜けな顔をしているだろう。なにせ意味が分らない。
「嫌いでないと言った。だから食べろ」
「意味が分らない」
「たまには甘いものを喰えということだ」
「………」
やはり意味が分らない。けれど拒む理由もない。それにどちらかといえば菓子は好きなほうだ。
味を知ったのはつい最近のことだがあの甘さは好きだ。
ゆっくりとチョコの塗られたビスケットを受け取る。
「うまいか?」
うなずく。そういえば今日はなにも口にしてない。
何枚か食べ終えると違う袋が開けられた。
しばらくの間それが繰り返され、袋が散らばった。
「…食べないのか?」
差し出すだけのティエリアを不思議に思う。
彼だって朝から俺と行動している。何も食べてないはずだ。
そもそもなんで食べているのかがよく思いだけない。
「俺はいい。帰る」
それだけ言って、残った菓子の袋を押し付けると立ち上がり荷物をまとめだした。
食べろといった次は帰る、行動が読めない。読みたくもないが。
「わかった」
「コレは貰っていく」
ペットボトルをかかげ、了承なく鞄へ入れて玄関へ。

「じゃぁ」
「……あぁ」

最後に分ったのはティエリアが不機嫌でないこと。
そして洗面台にプラスチック製の櫛とドライヤーがおいてあったこと。

手にもったチョコが溶けていたことだった。


やっぱり、ティエリアが嫌いだ。
なんだこの状況は、意味がわからない。

そしておそらくティエリアも俺が嫌いだろう。

根拠なんて、ない。





  

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