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□魚がいた
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「どうしたんだお前っ!?」

ロックオンは俺を見るなり声を荒げて駆け寄ってきた。
どうしたもこうしたもない、見たままだ。



無人島で生活している間、食事は自分で用意しなければならない。
勿論簡単に温めるだけのレトルトもあるし、保存の利く食品もある。
しかしそれらは余りにも味がうすい。食べていると実感できないのが不満だった。

だから、無人島の周りに泳ぐ魚を捕ろうとしたんだ。
こった料理なんかせずとも塩だけあればそれだけの味がある。
出来れば牛でも犬でも、足のある動物がいれば尚良いのだが、残念ながらこの島にはいない。
余談だが、この前散歩する犬に肉付きが良くて美味そうだと言ったらアレルヤが泣いた。ロックオンは呆れるしティエリアは理解できないと頭を抱えた。別に捕って食うつもりはなかったのに。

陸に食べ物がいない、なら海しかないだろう。
だから海岸沿いに歩いた。小さな獲物には興味がない、狙うは大物。

しかしそこで見つけたものは魚なんかじゃなかった。
そこにいたのはティエリアだった。

「………何を」

している、と問いかけようとした。
しかし海を真剣に見つめるそれに声を掛けることが躊躇われた。
だから何をしているのか、直接みようと思った。

ゆっくり、別に気配を消したつもりはない。それは癖で、気配が無いに越したことはない。
背後に立ったとき、ティエリアは俺に気付いた。
一瞬驚いたように目を開いたが、直ぐにいつものティエリアに戻る。交差した視線は直ぐに外され、海面に戻る。
海は静かに揺れていて、キラキラと魚の群れが光っている。中には大きなものもいるようだ。
種類は分らないが焼けば美味そうな魚、どう捕ろうかと周囲を見渡した。
釣り道具は持っていない、やるなら銛、鋭い木の枝でもいいと探すが、生憎広い入江には植物の陰もなかった。
なら、銃でいい。音が大きいがそれは構わない、懐から銃を取り出すとその魚に狙いを定めた。
「刹那。何をしている」
それなのに遮られた。声を掛けられながら獲物に当てることは自分には難しい。鬱陶しく思った。
「魚を捕る」
「何故」
「食べる」
「食料なら十分にあるはずだ」
「味がしない」
「なら何故銃でやる」
「道具が無かった」
「そうか、それは残念だったな」
一旦息をついて考えるそぶりを見せた。だから、油断したんだ。

「なら俺の分も捕れ、刹那・F・セイエイ」

言った瞬間、彼は少し笑った気がした。はっきりと分らなかったのは彼が動いたから。
強く握っていた銃を奪われ、背中を思い切り蹴られた。思い切り。
俺がいくら体術が得意でも、これはあまりにも不意打ちだった。

見下ろされている、と思った瞬間に俺は魚の泳ぐ海に落ちていた。

ザバァーン、聞えない。と言うかそれは衝撃であって音ではなかった。
うっかり海水は飲むし目はしみる。海に潜るにはそれなりの準備が必要なのに。
海面に顔を出したがむせて息が出来ない。

「余り暴れると魚が逃げるんじゃないのか?」
「げほっ、はっ… 何をっ!」
「銃を無意味に使うな」

何を、と本気で思う。
いきなり突き落としておいて何を言う。銃を使うなと言うなら言えば良いだろうに何故落す必要がある。
しかも地上から見下ろされる光景は癇に障るもので、無性に腹が立つ。

「分ったらさっさと捕ってこい」

待っている、それだけ言って銃と共にコンテナの方へ戻って行く。
まるで何も知らないとばかりだ。

「!ティエリア、ティエリっ待て!!」

結局海の中で叫んでも戻ってくることはない、そもそも来られても困る。もう俺に関らないでくれ。
いくら自分が先に近付いたといってもこれはない。考えられない。

大人しく力を抜けば身体は水に浮く。
疲れた…、目を瞑って息を吐く。それ程疲れたのだ。

暫らくじっとしていると視界の隅でキラリと光る魚を見つけた。
獲物は大物でなくては困る。しかも一匹という訳にも行かなくなった。

もう魚なんか捕らない…

そう心に誓ってから、本来の目的のために深く潜った。
武装は素手、刹那目標を捕獲する…




そうしてコンテナに帰ったところをロックオンに見つかった、と言うわけだ。
どうしたんだ、そんなこと見て分れと思う。

全身ずぶ濡れでインナーだけで白い上着は丸めて抱えて。
普段自由奔放な癖毛もへたりと頬に張り付き鬱陶しいことこの上ない。
歩けば靴は鳴るし服は張り付いて動きづらい。

苛々と上着を突き付けた。

「これを焼け、俺は疲れた。絶対に焦がすな」

睨みを効かせた、そして渡した。

大きく銀色に光る魚が4匹。








結局、美味しく焼けた魚はマイスター4人の胃に納まった。
ロックオンの調理は失敗なく久しぶりの味だった。

問題のティエリアが骨を取れだの、解さないと食わないだの言い出したが、なら何故突き落としたと問い詰めたくなる。
結局解してやるのだから疲れる。ああなんでこんなに疲れるんだ。

アレルヤに褒められたがなんの労いにもならない。こいつは一番楽して食べているんじゃないだろうか。

これからはどんなに味がしなくともレトルトにしようと思う。魚を捕るなんて考えたくもない。

「捕れないかと思った」

ティエリアが笑って言うから、見返してやりたいと思う、だからまた捕りに行くんだろう俺は。
その時はせめて銛を用意しようと思う。


まったくなにがどうしてこうなった!

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