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□公園から始る
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晴れた日中の公園は親子連れや犬の散歩を楽しむ人が多くいる。
それをただベンチに座って眺めるのも面白いと思う。
なにせ帰ればまた任務、あまりに日常離れした日常に疲れるのも事実だ。
そんななかの休日。平和な人間の生活を眺めるのも面白く、ついなにもとなしにニヤけてしまう。
例えば白い犬に引きずられる老人だとか、アイスクリームを落として泣いている子供だとか。
また癇癪を起した女に打たれて座り込む男とか。きっと足元のバラの花束が原因だろう。
くすくすと笑いが零れる。流石に声に出しては笑えない、それじゃあ不審者だ。
手袋をした手で口を押さえる。座り込んだ男がハイヒールで蹴られる、なんて可笑しいんだ。

そのカップルだか元カップルだかに夢中になっていると視界に影が入り込む。
今日此処には一人で来たし人と会う約束もない。観察の邪魔をされたことも気に入らない。
なにか用なのか、硬い表情で顔を向けた。そこには爽やかそうな青年が立っていた。
「今一人かな?」

何を突然。金色の猫毛とグリーンの虹彩をもつ青年は軽く首を傾げながら断りもなく俺の隣へ腰を降ろした。
「貴方が余りに可笑しそうにしているのでね、興味を持った」
なんなんだコイツは、眉間を寄せても青年は気にした素振りもなく口を開く。
「その瞳になにを映しているのかとずっと考えていたんだ」
身を乗り出た青年に上目遣いに覗き込まれる。初対面の癖になれなれしい、話しかけるな。
「すまないが俺はあんたと会話する気はない、どっか行ってくれないか」
その好奇心に満ちた瞳から避けるように身体を逸らしながら手をかざす。
動きが止まったと思えばその手を食い入るように見ている。先ほどまでとは違い真剣な眼差しだった。
「…なんだよ」
煩い口を閉ざしたと思えば今度はなんだ、態々此方が口を開いたと言うのに聞いてすらいない。
「ちょ、なにしやがる、」
突然動いたかと思えば手を取られ常にはめている皮手袋を脱がされた。
素手を知らない人間に触られるなんて冗談じゃない、慌てて引き寄せようとするがしっかりと捕まれ適わなかった。
「離しやがれ、なんのつもりだ!」
青年は形を確かめるように手を触る。手の平から指先まで余すとこなく。その感覚に身体が強張る。
指先はスナイパーの命同然で、私生活でも手袋を外せないのは手を守るためだ。そのため感覚は以上に鋭い。
それをべたべたと触られて平気なわけがない、いくら温厚な俺も声を荒げて抗議する。
すると青年はマイペースに視線を上げ、感心したように口を開いた。
「綺麗な手だ。白く繊細な、狙撃手の手だ」
グリーンの目を細めて何処か嬉しそうに言う。
「それもとても腕の良いものとみた、速さ正確性、タイミング。どれをとっても一流だ、違うかな?」
最後だけ、首を傾げて見せるが表情は確信に溢れていた。
確かに俺はスナイパーだが、手だけをみて確信を持てるなど聞いた事ない。
そもそも平和な日常の日中の公園にスナイパーがいるなどと思えるか、ありえない。
その突拍子のない発想は何処から来るのか。時間が止まったように青年の視線を受ける。
「違うとは言わせない、君の手がそれを証明している」
痺れを切らしたように近付いてくる。まるで我慢の出来ない犬を思い出す。
「やめてくれ、俺はそんな物騒なもんじゃないし、ほんとあんたに関りなりたくない。いい加減に離せ、警察を呼ぶぞ」
「別に物騒でもないさ、ここには危害を加えるものはない。十分平和だ。それに警察は必要ない」
話が噛みあわない、青年の中で俺がスナイパーであることは決定事項のようだ。
俺だって警察は必要ない。呼べば偽造IDを使う嵌めになる。こんなものは極力使わないほうが良い。
「平和か、なら俺の心の平和のためにどっか行ってくれ、それも返してくれ」
青年に奪われた皮手袋に手を伸ばすが避けられた。
「それは出来ない。なぜなら私は君に心を奪われた、食事でも如何かな?」
追いかけた手が止まる。なぜなら理解できないからだ。
心を奪われた? 食事だと? こいつホモか?
そっか、ホモか。納得すれば尚更関りたくない。手袋を諦め、逃げる為に立ち上がれば青年も立ち上がる。
「俺にそんな趣味はない、頼むから他を当たってくれ」
「無論私にそんな趣味はない。ただ君が興味以上の存在だということだ」
それがホモだと言うんだこんちくしょう!
「ただ純粋に食事をしたいと思っている。会話をしたい」
「俺はしたくない。大体何処のどいつかも知らないやつと話が出来るか」
手を振り距離を取る。
「私はグラハム・エーカーだ。これで良いだろう?」
自慢げに名乗った青年、グラハムは俺の腕を取ると大通りへ歩き出した。
数歩行ったところでそれを振り解く。唖然としてしまった、なにせ名乗れという意味ではない。
「そういう意味じゃない、ああ、そういう意味じゃないんだ」
素手で苛々と頭を掻く。絡む髪に触れる指の感触がリアルで気に入らない。
どうしてこうなった、思い返せば手袋を奪われたことが敗因だった。好き勝手に言い出したグラハムをシカトするべきだった。
「なのな、俺はあんたに興味もないし、この短時間で嫌いになってる。だから食事には行かない。わかったか?」
子供に言い聞かせるような口調になるのは癖だ。マイスターの中には問題児がいる、年長として面倒を見る機会も多い。
「…わからないな、私は君に笑って欲しいのだが、駄目だろうか」
肩を落して落ち込むが落ち込んでいるのは俺のほうだ。折角の休日に変なものに絡まれるなんて。
溜息を付いて辺りを見わたす。うんざりだ、周りの視線を集めてしまっている。
それもそうだろう、大の男が公園のベンチで手を掴まれ腕を組まれ。勘違いされても可笑しくない。
冗談じゃない、いつまでも此処にいればいい見せ物だ。
仕方なく歩き出せばグラハムは直ぐ後を付いてくる。その顔はすでに満面の笑みだ。
「あのな、俺は食事にはいかない。見せ物になるつもりもない」
「ならばショッピングはどうだろうか、いい仕立て屋を知っている」
離れずに付いてくる。内容からして会計はグラハムが持つのだろう。
行くつもりなんざ元からない。それでも諦めないグラハムのしつこさは尋常じゃない。
聞えるように溜息を付く。落ち着かない手はズボンに突っ込んだまま。
「そうだ、名前を聞いてもいいかな、名前を呼びたい」
本当にコイツのしつこさは尋常じゃないぞ。良いだろうかと何度も訪ねられ、偽名なら問題ないだろうと渋々口にする。
「ロックオン・ストラトス。満足か?」
「あぁ、ロックオン。素敵な名だな」
何度か呟いて笑う。笑うと子供らしいが甘く見ると痛い相手だ。

公園を出れば車通りの多い交差点へ出た。店へ行く気のグラハムから逃げるように俺は方向を変えた。
急いで変えたものだから俺は目の前にいた男性に気付かず、勿論男性も気づかず。ぶつかった。
グラハムのほうばかりを意識していたために大きくよろけ、咄嗟に手を着こうとしたがズボンに突っ込んだままの両手は直ぐには出ず、交差点で身体ごと転ぶはめになった。
「い、てぇー」
ぶつかった男性は迷惑そうな視線を送っただけで謝りもせずいってしまう。もちろん悪いのはこっちだが少しは手を貸しても良いだろうと思う。
転んだ時ぶつけたのか顎が痛い、身体も痛い。こんな派手に転ぶなんて何年振りだ。
「大丈夫か!?」
慌てて手を貸したのはグラハムだった。手を借りて立ち上がると付いた埃を払われ怪我はないかと問われる。
「…あ、顎をぶつけた」
「なんと、血が出ている…」
手を引かれ交差点を出る。立ち止まれるところに付くと顎を押さえていた手を取られ傷を見られる。
「…すまない、私のせいだ。私が手袋を取らなければこんなことにはならなかった」
落ち込みながらもハンカチをあててくる。優しいのだと思った。
俺は逃げようとして勝手にぶつかったというのに。
「きちんと手当てをしよう、後が残る。大丈夫か?」
「あ、あぁ大丈夫だ。舐めときゃ… 舐めるなよ?」
言っておいてあれだが嫌な予感がしたんだ。
「私は犬や猫でないのでね、傷を舐めることはしないよ」
怒った素振りもなくグラハムは笑う。一体何が楽しいのか。
「どうした? やはり痛むか?」
「いや、もう平気だ、ありがとう」
ころころと表情を変えるさまは本当に犬そっくりだ。思わず笑っていたのか何が可笑しいのかと聞かれた。
「老人を引きずる白い犬を思い出した、グラハムとそっくりだ」
きょとんとして首を傾げるが直ぐに手を挙げて喜び出した。何事だ。
「やっと名前で呼んでくれた、覚えていてくれたのだな」
それか、そりゃこんな印象強いやつを忘れる方が難しいだろう。
「あぁ、そしてアイスを落として泣く子供みたいだ」
「私はアイスごときで泣きはしないよ」
「芋ずる式にバラを持って振られる男でもいい」
「芋づる? ロックオンはバラが嫌いなのか?」
「いや? そう言う意味じゃない」
晴れた日中の公園は可笑しく笑える。それを打ち壊したこのグラハムはその公園のように可笑しくて笑える。
急に良くなる機嫌に調子の良いものだと自分でも思う。だが困惑したグラハムに気分をよくしたのは事実だ。
機嫌がいいのを感じ取ったのかグラハムが口を開く。おそらく今なら付いていってしまうかもしれない。それ程愉快なのだ。

「なら仕立て屋に行き服を買い揃えよう、汚れてしまった」
頷いた。
「次に食事を希望する。アイスをデザートにしよう」
それにも頷いた。
「花屋へ行きバラを買い占めよう、赤いやつを」
女でもないのだが、それでも頷いた。
「そして私の借りている部屋へ行って手当てをする」
「それは遠慮する、駄目か?」
「身が硬いな、しかしそれも魅力だ」
満足気なグラハムはポケットから皮手袋を取り出すと俺の手を取り渡した。
改めて触れたグラハムの手は厚く、刹那やアレルヤのものと似ていた。
この手は一体何を握っているのだろうか。
わくわくとした感情をあらわにして早く行こうかと手を引かれる。
久しぶりに人と手を繋いだ。手はスナイパーの命も同然だ、常に守られている。
革越しに伝わる熱に慣れるのも時間の問題だ。




「俺、年上好みなんだけどなぁ」
「? 同じぐらいでは?」
「俺、24だぜ?」
「私は27だ」

「え、年上!?」




+*+*+
あえて言わせて貰おうグラロクであると!!
なんでだろうか、15話関連で「抱きしめたいなぁロックオン!」や「まさに、眠り姫だ」と言わせたかったんだ!
でもグラハム語とロックオン語を入れられたから万事オッケー!(なんだ万事オッケーって…
最終ギャクで終るなんて… 予想外だよ(オイ
嵌るね、グラロク。公式CPだもんね!


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