*Shiki* 4巻

□第92話
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 ハルキは眠れなかった。
 寝返りが打てないのでベストポジションを保てないし、すぐ横には可愛い異性がいるからだ。
 こんなこと人生で初体験だった。

 早く……早く寝よう!

 ハルキは気持ちを落ち着かせ、少しでも楽な姿勢になるよう体を横向きにした。
 するとシュウと向かい合う形になった。


ハルキ「……ッ!」


 その距離およそ十五センチ。吐息がかかる距離。


シュウ「ハル、まだ眠れないの?」


 あ、いや、その、としどろもどろになりながらも必死に気持ちを落ち着かせた。
 お酒を飲んで赤くなった顔が妙に色っぽく見えた。


シュウ「アタシも……ちょっと眠れないんだ」


 そう言うと少しだけ身を寄せた。
 距離はおよそ十センチ。近すぎる。


シュウ「子供の頃はお母さんが子守歌を歌ってくれた。優しくて、暖かくて、すごく心地良い歌だった……」


 シュウはゆっくりと目を閉じた。


シュウ「今でも覚えているこのメロディ、いつかアタシの子供にも聞かせてあげたい……」


 これって軽くプロポーズされてるんじゃないかとハルキは心配になった。


シュウ「ハルも子守歌は聴かされたことあるでしょ?」

ハルキ「へ? ああ、うん、まあね。ゆりかごの歌とかを聴かされたよ」

シュウ「どんな歌?」

ハルキ「えっと、こんな感じだったかな」


 ハルキはゆりかごの歌を歌った。歌詞はあまり覚えていないのでメロディだけを奏でる。
 懐かしいこのメロディにシュウは聴き惚れていた。


シュウ「良い歌だね……。アタシの子守歌はね、精霊の庭っていう歌なの」


 そう言うとシュウは歌い始めた。
 ゆっくりとした速さの優しいメロディ、聴く者の心を和ませる。

 聞いていてどこか懐かしい雰囲気を感じた。

 不意に一人の女性の顔が頭の中に映し出された。
 女性は涙を流しながら、精一杯笑顔を作りハルキにこの歌を歌っていた。
 
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