*Shiki* 4巻

□第97話
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 そんな時は大切な人の顔を見ると気持ちが落ち着く。

「ハル、疲れたような顔をしてるけど……大丈夫?」
「うん、大丈夫だから気にしないで……」

 大切な人はエルフ。このシキという世界にしか存在しない者。
 日本に連れて帰るわけにはいかない。
 かといって自分がシキに残るわけにもいかない。
 でも自分は元々シキの人間。
 だが日本には一緒に暮らしてきた大切な仲間達がいるわけで……。

「俺はどうしたら……」
「えっ? なにか言った?」
「い、いや、別に」

 ついつい口に出してしまった。
 本当にどうしようか……。



 歩いているうちに陽は沈み、森は夜の闇に包まれた。
 四人は適当な所で野宿をすることにした。
 焚き火の火を起こし、ニルクの町で買った食料を焼いて食べた。それなりに美味しかった。
 しかしハルキだけは食欲がないのか、あまり食べていなかった。

「ハルキ、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」

 マーサが優しく声をかけるが、ハルキはヨロヨロと立ち上がってその場から離れた。
 ハルキは誰もいない所までやって来ると、急激に原因不明の吐き気に襲われ激しく嗚咽しながら嘔吐した。
 今までこんなことはなかったのに、今日になっていきなり体調が悪くなった。何かの病気だろうか。
 気持ちが悪い。
 頭がぼんやりする。
 気分が落ち着かない。
 物事を落ち着いて考えることができない。
 ハルキは涙を流しながら再び嘔吐した。
 もうワケがわからない。
 何も考えられない。

『ハルキ、大丈夫ですか……って、大丈夫ではないようですね』

 春の精霊シルフだ。

「助け……精霊さん……。俺……どうしちゃったの……?」

 ハルキは蚊の鳴くような声で訴えた。

『貴方の体に何かが入り込んでいるのです。寄生虫というわけではなく、何かもっと別のものです。あれは……そう、貴方がエルフの集落で激怒した時からでした』
 
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